物流ニッポン新聞社 石井麻里記者 − 記者に聞く 第1回 
―経歴について教えてください。
大学時代の専攻は、物流とは関係のない分野です。早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業後、第一文学部哲学専修に学士入学。 卒業論文のテーマは 「ハイデガーと身体論」です。現存在(da-sein)という彼の人間理解が精神医学に採り入れられていったことに着目し、彼の身体論の再評価を試みたも のです。
記者というのは、その頃まったく予想していなかった仕事ですが、知的誠実さが求められるという点で、学問の世界と共通すると思います。「もともと物流に 興味があったのですか」という質問をよく頂きます。物流というと、映画「ヘッドライト」(注1)や、エリック・ホッファーの「波止場日記」(注2)といっ たイメージがまずあって、「大変な仕事」ということを観念的にとらえていました。
実際取材してみると、物流の現場は想像以上に厳しく、きれいごとではない――。
そういう反省から、できるだけ物流の現場、実務に携わる方に近い目線で、取材のテーマを選ぶよう心掛けています。
物流ニッポン 石井麻里記者
―物流ニッポンについてご紹介ください。
来年で創刊40周年を迎えます。発行部数は15万8000部で、読者層の内訳は荷主43%、物流業53%です。
最近では、物流不動産ビジネスに関連し、不動産業、金融業、建設業といった新しい分野の読者が増えてきています。
物流会社のグローバル展開が加速する中で、海外現地取材にも力を入れています。同時に、一層の差別化、高付加価値化が要求される国内物流について は、全国11支局のネットワークと各記者の取材先との信頼関係を強みに、今まで以上に広く、深く掘り下げた取材活動を行っています。
全国の記者は、それぞれが担当する企業、業種について専門的な知識と理解を深めながら、業界の動向にアンテナを張り、タイムリーに必要な情報を提 供するよう努めています。若い記者も多く、取材を通じてご指導をいただくこともありますが、感謝の気持ちを次の取材活動に振り向け、紙面の充実を図ってい きたいと考えています。
―記事を読むと、港湾関係の物流を精力的に取材しているようですが、物流施設については今後、取材する予定はありますか。
国土交通省の「産業競争力強化ゾーン」(仮称)という政策に注目しています。
スーパー中枢港湾に隣接した地区で、高度で大規模な民間の物流施設の整備に対する支援策を拡充するというものです。
誰がどのような物流施設を整備するのでしょうか。どのような物流会社がそこでオペレーションをするのでしょうか。それによって、港湾の物流機能が どう変化するのか、スルー型に変わっていくのか、内陸から港湾への物流機能のシフトが進むのか、などを今後、取材していきたいと考えています。
ハード、ソフトの両面で、時代の要請に適った新しい物流施設が整備されることを期待しています。港湾エリアの物流施設は、海外と国内を結ぶロジス ティクスの重要な結節点です。だからこそ、新たに物流施設を建てる際には、どういう物流機能が必要とされ、どういう施設が使い勝手がよく、安全・効率的な オペレーションが行えるかという現場の声が十分に反映されればいい、と思います。
技術的に可能かどうかは別として、現場ならでは物流施設に対するニーズは色々とあります。
例えば、海上コンテナの二十フィートと四十フィート兼用のフレキシブルトレーラは、二十フィートをデバンニングする際、現状のプラットホームだとコンテ ナとの間に隙間ができてしまう。せっかく合理的な輸送ツールなのに、倉庫での荷役の安全性が確保できないというのが、普及を妨げる原因の一つとなっていま す。
こうした新しい車両に対応できるプラットホームという発想が、倉庫の側で出てきてもいいのではないでしょうか。物流現場の多くの関係者がメリットを享受できるような新しい物流施設が整備されることを期待しています。
―最近の物流不動産ファンドについては、どう見ていますか。
大型物流施設の開発については、そのエリアへのマイナス影響も懸念されています。
開発がある一定エリアに集中し、庫腹が過剰になることにより、倉庫賃貸料の値崩れが発生したり、パートタイマーなどそのエリアで働く労働力の流動化、取り合いが起きたり、入出庫ピーク時の道路混雑も考えられます。
物流施設に投資する際、重要な要件となるのが、エリアポテンシャルです。
道路網が充実しているとか、港湾、インターチェンジから近いとか労働力の確保が容易だとか倉庫の立地としてのエリアポテンシャルが高いから、物流 会社がそこに集まってくる。そういうエリアは、物流不動産ファンドにとっても同じように魅力的で、新たに物流施設を建てて、テナントを誘致しようとしま す。
物流不動産ファンドが開発する物件のうち、不特定テナント向けのマルチテナント型施設は大概、容積率めいっぱいの超大型施設です。
単純に「利回り」という考え方だけで超大型施設を建てると、周辺の道路交通がキャパシティーをオーバーしてしまったり、労働力が調達にしにくくなったり、従来、エリアポテンシャルを構成していた条件を大きく変えてしまう。
「大型商業施設ができて、周辺の商店街にもプラス効果が波及した」という現象は、実例があるということです。物流施設でこれと同じことは無理なのでしょうか。
そのエリアの現状を分析した上で、エリア全体の競争力強化につながるような物流施設を規模や業種を考慮しながら適正に設計し、テナント企業を誘致する――。
今後の物流施設開発では、そういう視点を期待しますし、そういう視点を持った物流不動産ファンドは最終的に勝ち残るのではないかと思います。
注1:1955年の仏映画。長距離トラックドライバー(ジャン・ギャバン)と、サービスエリアで働く薄幸のウェイトレス(フランソワーズ・アルヌール)との悲恋を描いた。
注2:独学の社会哲学者(1902-1983)。サンフランシスコで港湾労働に従事した。
物流ニッポン新聞社HP
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