倉庫リノベーションオフィスが仕事の質を高める − 72 
倉庫リノベーションオフィスを取材しているうちに、環境が人間に与える影響に敏感になってきた。例えば、平屋倉庫をリノベーションしたワークヴィジョンズ(東京都品川区)のオフィス。ここはむき出しの鉄骨や倉庫時代のライトを活かしながら、非常に居心地の良い空間を作り出している。天井が高くゆったりとした雰囲気の空間は、シンプルでありながらもデザインした建築家の西村浩氏の美意識が随所に感じられ、若手が生き生きと働いている。
また、築80年の繊維倉庫をカフェ兼建築事務所兼ギャラリーにしているアーキテクツオフィス(東京都中央区)は、倉庫時代の床や壁の文字を残したまま利用している。倉庫の歴史の存在感がありながら、決して古臭くなく、現代のアートへとつながっている。本物のアンティーク北欧家具、ユニバーサルデザインの陶器など本物をカフェやオフィスに置くことでお仕着せのビル、オフィスにはない空間を作り出している。一度デザインを担当すると増築や他の建物の時も声がかかることが多いという石川雅英氏のクリエイティビティを感じる。
倉庫をリノベーションしたオフィス、スタジオなどはテナントの入居年数が比較的長いといわれている。それは入居者がこだわって作りあげた空間、環境が、結果的に仕事の質を高めることに役立っているからではないか。倉庫をリノベーションしたセミオーダーの自分好みのオフィスで、仕事の質を高めている実例を見聞きするにつれ、今後も倉庫リノベーションが日本に有益なオルタナティブ(もう一つの)ワークスペースを提供していく可能性を強く感じている。
(イーソーコ総合研究所 鹿野島 智子)