物価上昇と波及効果 − 第2回 経済政策用語解説
デフレの反対はインフレなので、戦後30年間高い時では8%、低い時でも5%もの高度経済成長を経験してきたこと、つまりはコントロールされていたと言うインフレを起こそうというのが今の話題です。物価上昇率2%を目指そう、このことをインフレターゲットと呼んでいるのです。
前の自民党政策にもしっかり宣言していたインフレターゲット期待論は、どこへいったのでしょうか。2%のインフレなら、何となく消費税より低いし、今の預金金利より高いから、「何となく、今よりは良くなるかもね」という言葉の遊びに聞こえます。
しかも、この目標は政府も日銀も時期を明らかにしていません。いつの段階で、前より2%の物価上昇をもたらすことを宣言しているのかが、全くハッキリしていません。
●物価は日銀が決めるのか?
物価が上がれば、企業の業績が好転して、結果的に賃金が上昇するでしょう。でもそれを日銀が決めている訳ではないのに、なぜこのようなことが言われているのでしょうか。
日銀は銀行の銀行であって、物価監視人ではありません。確かに景気監視役として優秀な人材が登用されてはいます。経済は銀行活動を必要としていますから、その銀行の動向を左右するのは日銀かもしれません。しかし、今までもずーっと金融緩和は行われてきて、実にゼロ金利という状態が15年間も続いています。定期預金の利息は0.1%、100万円の預金は1年でも千円にしかなりません。お金にはほとんど価値がなくなり、銀行に預ける動機がない状態です。年金生活者や引退した高齢者にとって、銀行にお金を預けるもののいつか引き出して買い物をするつもりはありません。
デフレが需要と供給のアンバランスであって、需要縮小、供給過剰の両面があるわけだから、低金利状態から脱出しなければ需要と供給はバランスできないことは承知しているはずです。
大胆な無制限の金融緩和というリップサービスは、資金需要を一層高めます。しかし、それは資本家、金融機関に限ってなのです。だから、昨年暮れの政権交代から一気に円安、株高が進んでいますが、消費は復活していないことで証明されています。
企業投資を促進するための金融政策は、すでに20年前からファッションチェンジしています。企業が銀行を頼りにする間接金融から、株の増資や債券の発行などによる直接金融、企業の新規株式公開(IPO)に代わっているのですから。
●物価調査は500アイテムで分かる?
総務庁統計局では毎月物価調査を行います。3万店と3万世帯で500の商品とサービス価格を調査員が調べて発表しています。それとは別に、8000世帯の家計簿を独自に調べて、毎年家計調査年報、月次速報を発表しています。
世帯の消費実態は平均28万円です。物価と世帯収入は完全にリンクしていて、だってそうですよね。何をどこで買うか?というお買い物は、使える給料や収入に影響するわけですから、ユニクロか銀座の専門店のどちらを選ぶかは、収入と価格の両方を見ている訳です。
物価が上がるとしたら、値上げが収入増とリンクして初めて可能なのです。所得が増えないのに、物価が上がるなら不買行動が起きるだけです。
電気代が知らずに上がっていることを知れば、節電に走るのと同じです。
物価上昇2%とは、所得や収入の2%以上の増加が起きなければ実現できないことが実感できますか?
物価が先か所得が先か、同時発生なのか? できることは、宣伝や広告によって「給料の上がっている企業が増えてきた、お買い物をどんどんしましょう!」的なプロパガンダがこれから、頻繁に聞こえてくることでしょうね。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント 花房 陵)