トービン税、ロビンフッド税、金融取引税 − 第7回 経済政策用語解説
先進国とはG8とかG20などの国々を示しています。日本を含め、これらの国々が先進できていない事態に陥り、2007年世界同時不況が始まって問題が表面化しました。
今でもニューヨークではOccupy Wall Street(・ストリートを占拠せよ) 運動が続いています。それは若者の失業率や貧富格差の象徴が金融業界にあるのだ、という啓示なのです。
リーマン・ショックの原因は特定化されていませんが、金融業界の不祥事には違いありません。強欲と呼ばれた経営陣とそれを陰で支援していたアメリカ国家、FRB(連邦準備制度理事会)は非難に値する行動を取って来ました。
金融活動は実体経済を支える重要な役割を持っていますが、ある時期から金融ビジネスがマネーゲームに変貌しています。サブプライムローン問題は、まさしく弱者への金融活動が破綻を前提とした保険商品で補うという、ギャンブル問題でした。
簡単に説明すると、住宅資金の融資を行う際に、信用不安や所得制限のために通常より遥かに高い金利で貸し出すのです。
貸付銀行は高利のために高収益を確保出来ますが、かたや返済が滞る不安や全く返済できないで破産するリスクがあります。そこで、破産した場合にはその債権を肩代わりするための保険が生まれました。もちろんそのような保険は、破産のリスクがあるので高額な保証料になります。
高金利と高保証料を隠すために、様々な金融商品を組み合わせて、その実態をわからなくするような仕掛けでデリバティブ商品が作られ、膨大な額で世界中に販売されたのです。
いつしか、破産の連鎖が起きて、金融商品そのものの販売が緊急停止。金融業界で資金の流れが突然停止したのがリーマン・ショックでした。
金融業界は必要な存在だけれど、放任すれば強欲に走る悪さが明らかになったのです。
プルーデンス政策(慎重な思慮深さ)というのが、現在の金融行政を監視する思想です。信じられないことに、金融業界の失敗はギャンブル放任であったことの反省です。
資本主義の国家ではいずれも証券取引、外国為替取引、保険会社による投資活動が盛んです。しかし、本来の意味や目的から見ると実態は遥かに異常な状況にあります。
例えば日本の証券市場では、本来は上場企業の資金調達にその目的があります。毎日1兆円以上、年間420兆円程度の株式の取引が行われていますが、その実、企業の資本になったものはほとんどありません。新規公開株は1%にも満たず、その他の取引はギャンブル同然です。
為替市場も同様に、毎日400兆円の売買が行われていますが、外国貿易に必要な決済手段としての為替取引の100倍にもなっています。こちらもギャンブル。これが金融機関で言う投資行為なら、生命保険や投資銀行の本質はギャンブルになります。
先進国ではこのような金融業界の爆発的な拡大によって、成長してきましたが、その結果の世界同時不況だったのです。
先進国が問題を抱える中で、後進国にも貧困や飢餓という事態が決して無くなることはありませんでした。アメリカの経済学者、ジェームズ・トービンは地球の問題を経済学的に解決するために、先進国からの支援資源を金融取引に見出しました。経済の実態とは別次元で活発化している金融取引に、非常に少額の税を掛けて、後進国支援、貧困の解消に役立てようと提言したのです。
これがトービン税の始まりです。弱き者を助けるロビンフッド税とも呼ばれて、真剣に協議されています。先進国財務相会議G20では、毎年議題に上がり、そして昨年フランスとドイツで決議されました。韓国でも財政問題の解決策として、導入の検討が始まっています。
仮に日本でも、0.1%のトービン税が導入されたら、証券市場では4000億円。為替取引では33兆円の税収になってしまいます。しかも、それの財源はギャンブル的な金融取引の成果であって、勤労所得や低収入層からの徴税ではありません。
税収不足も一気に解消、国内の貧困問題も新しい福祉政策の導入によって解消できるでしょう。
問題はこのような格差、不平等、異常な状況を正しく理解しようとしないところにあります。金融機関の本質を離れたビジネスが許されるなら、実業界の本業を積み上げている勤勉性が否定されることになるのです。
財政問題解決のためには、消費税などの取りやすいから徴税する、という所からそろそろ方向転換をするべき時代になりました。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント 花房 陵)