社会福祉の限界 − 第9回 経済政策用語解説
社会福祉とは、未成年者や高齢者、障害者などの支援や介護を必要とする人々への公共サービスを言います。少子高齢化社会を迎えた日本は、これらの福祉費用が賄えないほどの状況に陥っています。国家財政が福祉への支出をできない状態に近づいていて、国民の中にはぼんやりとした不安が高まっているのです。
そのような成熟国家の課題とは別に、現在の福祉制度、例えば健康保険制度や生活保護法による支援制度には明らかな制度欠陥が存在しています。
生活保護制度と最低賃金制度の問題は、モデルケースを見るまでもなく異常です。
50歳代の単身世帯での生活保護基準額は14万円、年額168万円。もし最低賃金で労働しようとすると、月間200時間で15万円程度である以外に納税と保険料などが徴収されますから月額手取りが10万円を遥かに下回ります。働くよりも保護を受けたほうが収入が増える、というような事態が実際に起きているのです。
モラルハザードとは、このような事態を言います。日本国憲法で労働と納税が国民の義務であり、そのことによって国家を支える勤労観がバカバカしい制度だと気づかれてしまったら、この国には未来がありません。今、守るべき国民とぶら下がるだけの国民が共存している状態ですから、道徳やモラルを求める声が高まっても仕方がありません。
健康保険制度についても、国民の生命をギリギリで支える救急医療の現場にしわ寄せが来ています。事故や事件の救命だけでなく、出産や最期の医療としての救急施設が疲弊していて、医師不足やベッド不足によって失われる命も少なくないと言われています。かたや街の診療所や医療施設では、長時間の待機や診察待ちが当たり前の状態で、若い人が医療機関と共に健康管理を維持することすら難しくなってきています。
最も深刻な状況は、このような社会保障費用(国民年金支給を含む)が年間100兆円を超える状況まで行き着き、毎年3兆円もの増加傾向にあるというのです。
国家予算は税収と国債発行によりますが、税収と国債発行が半分づつでようやく90兆円の予算が確保できている状況で、毎年の社会保障費はどこにも捻出する余地がないのです。国民年金も労働者の積立金ですけれど、基金は100兆円しかなく、運用成果はわずかに2~3%ですから、いつ底をついてもおかしくない状況なのです。
深刻な状況を迎えている国家の経営を、どのように舵取りしてゆくか。政治に期待して、そして裏切られ、再び55年体制へ回帰していく世論の動向に、私たちは企業にあっても国民としての自覚が求められ、人任せにはできない状況にあることをきちんと理解することから対策を共に考えてゆくことが求められているのです。リーダーシップ不在の国家で、一人ひとりが舵取りの責任を負っていることをまず知りましょう。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント 花房 陵)