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小野秀昭・流通経済大教授▼緊急提言、公正取引のルール整備を 

2013年10月19日

【輸送経済(http://www.yuso.co.jp/)】
 トラック業界で進むコンプライアンス(法令順守)の徹底――。運賃改善は遠く、事業環境は依然厳しいが、事業者はコストを惜しまず安全規制の強化に対応している。一方、事業者が求める「正直者が馬鹿を見ない」業界への道筋は見えないまま。「『公正な取引』のための規制が、十分に整備されてないことが問題」と話す小野秀昭流通経済大教授に、解決への糸口を聞いた。
 昨年の関越道高速ツアーバス事故以降、安全への意識が高まるトラック業界。所管する国土交通省は、安全規制を強化。事業者もデジタルタコグラフ(運行記録計)、ドライブレコーダーなどを導入し安全の取り組みを推進。業界をあげて安全規制の順守が叫ばれ、コンプライアンスの徹底が進められている。
 だが、安全規制に対するコンプライアンスが進む一方で、不十分なものがある。「公正な取引」の規制に対するコンプライアンスだ。トラック業界が社会からも、事業者からも望ましい事業環境を実現させるには、「安全」と「公正な取引」、2つの観点からのコンプライアンスが欠かせない。
 公正な取引のコンプライアンスが進まないのはなぜか。公正な取引の「規制」が十分に整備されていないからだ。コンプライアンスとはルールを守ること。守るべきルールが不十分であれば瓦解(がかい)する。
行政も議論は重ねてきたが 
 これまで、ルールづくりに向けた取り組みが何もなされてこなかったわけではない。平成22年3月、国交省の下で、トラック産業の将来ビジョンに関する検討会が始まった。ルールを守らない不法事業者が利益を得、「正直者が馬鹿を見る」業界からの脱却を目指し、最低車両台数・適正運賃収受ワーキンググループも設置。議論が重ねられた。
 昨年10月、その報告書がまとめられた。最低車両台数の見直し、標準運賃の設定は、いずれも切り捨てられる結果に。検討の余地があると残されたのが事業許可更新制度。これも議論はされずに止まったまま。そして突如、代わりに「トラック運送契約の書面化」規制が俎上に載せられた。
契約書面化は中途半端
 時間、付帯作業の内容、燃料サーチャージなどを運送引受書に明示することで、〝正当な取引〟に対する〝正当な対価〟を得られる環境をつくる、というのが規制の趣旨だ。「公正な取引を目指す」「適正な運賃の収受を実現させる」との狙いはいい。が、現状、実効性は期待できそうにない。
 規制は実運送事業者に対して引受書の発出を求めるだけ。荷主には及ばない。手待ち時間や付帯作業に対する手当て、そうしたものの原資は荷主から引き出す必要があるにもかかわらずだ。中途半端な規制になっている。
ルールはこれでいいか、実効性はどれだけあるかを行政が展望し、しっかりとしたルールづくりを早急に進める必要がある。
そこで〝切り札〟になり得るのが、事業許可更新制度だ。
更新制の議論早急に再開を
 更新制は、許可取得後の事業者に対し、一定期間ごとに許可更新を義務付けるもの。保有車両数、社会保険加入などトラック運送業に必要な要件を審査することで、不法事業者を排除できる。
 更新料を払ってでも不法事業者が退出し、市場が健全化することを多くの事業者が望んでいる。適正化実施機関を有効活用すれば、行政側のコストも抑えられる。議論を中断している理由がない。
 「物量が減少し事業者数が増えたため、公正な取引が成立しない」との声は多い。だが実際、営業用貨物のトン数は規制緩和以降、増加傾向。22年には30億トンに初めて乗った。物量減が問題ではない。問題は不法な事業者がいることなのだ。
 事業者がコンプライアンスの意識を高めるいま、行政には早急なルールづくりが求められている。
(略歴)小野 秀昭氏(おの・ひであき) 昭和30年2月13日生まれ、58歳。宮崎県出身。54年九大卒。日本通運、日通総研、三和総研(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)を経て、平成20年、流通経済大学物流科学研究所教授。(文責・松井 悠)