書評▼松村直幹著『知的財産物語 枝豆戦争』(定価1429円+税、昇友) 
2008年09月18日●松村直幹著『知的財産物語 枝豆戦争』(定価1429円+税、昇友)
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元ニチロ専務の松村直幹氏が、じっさいに携わった「枝豆戦争」の題材を扱いながら、知的財産の重要性を語った物語というべきだろうか。ノンフィクションの経済小説の形態を採りながら、中途には、小説の枠組みを越えた記述もなされており、ビジネスのハウツー本という性格を持ちえた、ちょっと不思議な本だ。ただ、この不思議な形態により、著者が所属していた冷凍食品業界の内情が色濃く描き出されるとともに、著者の狙いであるだろう知的財産について明快に記述することに成功している。
ジャンボ海老フライの「ジャンボ」には商標の持ち主がおり、商標使用権を獲得したエピソードから、「サクサク」商標権による訴訟の一部始終を記述。そういえば少し前に「阪神優勝」なる商標権登録で騒ぎになったことがあるな、と想いを馳せながら、商標権の重要性を認識させたあと、本題の「枝豆戦争」へと話は移る。
枝豆戦争とは冷凍食品業界で大きな騒ぎとなった、知的財産争いのこと。塩味の枝豆製法に絡んだ特許争いなのだが、著書側の企業は「豆の中心まで薄塩味を浸透させた」技法が知的財産である「容易想到性」として認められ、原告企業の訴えを退け、勝利を収める。
特許争いとしては当然の帰結なのだが、業界のさまざまな軋轢のもと、中途では厳しい戦いを強いられハラハラさせられる。これだけシビアな状況を克明に描きだせたのも、事件の渦中にいる本人であったこと、知的財産に対する熱い想いがなせる技だろう。
知的財産のハウツー、冷凍食品業界の内情を知るにはこれだけ適した本はそうそうない。小説としても十分すぎるほど優れた構成となっているので、ぜひご一読の程を。
(書評・ロジスティクスIT研究所・橋本和幸)