中国▼反日デモ、物流に波及。配達が行えない例も 
2012年10月04日 【輸送経済(http://www.yuso.co.jp)】
日本政府による尖閣諸島(沖縄県)国有化への抗議から広がった中国の反日デモ。中国に進出する日本の物流企業への影響は。複数の企業では9月18日事業所を休業。顧客の操業停止に伴い、納入・搬出を行えない例も発生している。
デモのピークとなった9月18日は満州事変の発端となる柳条湖事件の発生日。複数の企業が「念のため休業し、社員は自宅待機」に。日本通運の北京・珠海、センコーの青島・深圳などの拠点も休業した。
自社は平常通りの営業が可能でも、「顧客の日系企業が操業を停止。配達・納入や搬出が行えない事例もある」(トナミ運輸)という事業者も多い。メーカーの物流子会社からは「親会社の工場が止まり、請け負う構内物流業務も休止した」の声も。
原則業務は継続しつつ、「危険が予想される場合の集配ルートの限定・中止などは現地で判断するよう連絡」「現地動向をチェックし、何かあれば支援できる体制は整えている」など現地判断に委ね、事態を注視している状況のようだ。
一部の日系小売り・メーカーのように、施設や車両などが破壊行為を受けたとする物流企業は、20日時点で本紙が取材した範囲ではなかった。
出張取り止めや外出自粛も
中国国内の日本人スタッフに対しては、「無用な外出は控えるよう指示」「中国国内出張を停止」などの対応が主。帰国指示を出した企業は現時点では見られない。半面、一部の事業者は「日本からの中国出張を取り止めている」という。
中国人スタッフがストライキなどを起こした事例はないもよう。「普段から円滑にコミュニケーションが取れ、良い関係を築けているので問題ない」(上海などに拠点を持つ事業者)。
「中国の一部労働組合では、上部団体から指示があればそれに従い行動せざるを得ないこともあるとも聞き、心配している」とする声もあった。
「今後は顧客の動向次第」
今後の中国事業に影響は及ぶのか。
「現時点で直接の影響はないが、顧客の対応次第」とある事業者。「海外ではカントリーリスクを覚悟しており、中国が魅力的な市場であることは変わらない」(他の事業者)といい、「すぐに中国展開の方針を転換するとは考えられない」(日通総合研究所)。
ただ日系物流企業の顧客の大半は日系企業。深刻な状況が続けば、拠点移転の可能性も。
一方で、新たな商機を期待する事業者も。「荷主はリスク回避のため他地域に目を向けざる得なくなる。東南アジアなどには親日の国も多く、その地域に進出する物流事業者にとっては事業拡大のチャンスになるかもしれない」(ある事業者)。
日系貨物の検査増加 輸送の遅延を懸念
輸出入通関には影響が出ている。日系企業の貨物について税関検査が強化され、フォワーダー各社は「輸送に遅延が生じる可能性がある」と利用者に注意を呼び掛けている。普通、税関では全てを検査せず一部を抜き取り調べる。検査対象の数が増えれば、輸出入の流れが滞る。
「手続きに伴う遅延により、予定の船・航空機に搭載できないなどの影響が出ることも考えられる。利用には余裕を持ったスケジュール設定をお願いしたい」(郵船ロジスティクス)。
同社によると、9月19日時点では武漢で日本発着を問わず日系企業の貨物がほぼ全て検査対象に(9月20日にほぼ通常状態を回復)。青島、鄭州では通関書類チェックが厳格化しているほか、外高橋でも日本製の貨物について検査率が上昇している(いずれも9月20日時点)という。(村山 みのり)
「影響は限定的」日本総合研究所調査部主任研究員 佐野 淳也氏
短期間で収束に向かうとすれば、影響は限定的ではないか。
中国での反日活動を受け、日本企業が中国から東南アジア諸国などへ拠点シフトを加速させるとの指摘もある。しかし、産業基盤の整備状況や市場性、これまでの設備投資を考えれば、東南アジア諸国やインドへの移行が急激に起きるとは考えにくい。
近年、海外進出先を中国以外にも求める「チャイナ・プラス・ワン」の考え方が広がっている。リスク分散の観点から中国一国に集中せず、他の国でも並行して一定規模の投資を行うもの。これが進む可能性はあるが、現況では他のアジア諸国が中国に替わる段階には達していない。
もっとも、これまで中国へ進出していない企業が中国内陸部・東南アジア諸国のいずれかへの進出を検討する際に、今回の一連の事態が中国での展開をちゅうちょする要因にはなり得る。
カントリーリスクは東南アジア諸国も含め、どの国にも多かれ少なかれ存在する。今後状況の安定、市場発展などがより進むとすれば、中国が重要な海外拠点であることは変わらないだろう。