佐川の不採算貨物撤退▼「薄利多売の時代」終焉か 
2013年05月16日 【輸送経済(http://www.yuso.co.jp)】
特積み業界で「佐川(急便)さんの強硬値上げ」が話題だ。「運賃が折り合わない荷物は断る。その覚悟で値上げをしているようだ」と、北海道の特積み事業者。労働力不足や品質への要求の高まりなど輸送コスト上昇が避けられない中、運賃是正に取り組む特積み各社もこの動きを歓迎。大手が値上げに踏み切ったいまが、「業界全体の運賃上昇」に弾みを付けるチャンスかもしれない。
昨年夏ごろから、「佐川さんの断った長尺ものが流れてきている」と話す特積み事業者が急増。「どこが受けているのか」が業界内で話題になった。
佐川急便は扱いが難しく、積載効率も悪い大型家具など長尺ものの運賃を見直し、単価アップを進めている。昨夏、長尺ものや重量物を扱う宅配便の商品規格を変更。輸送効率アップを図るととともに、単価の低い荷物の取り扱いも見直した。平成25年3月期の下期以降、宅配便単価は2円上昇。輸送の付加価値向上にも注力し、26年3月期は10円の単価アップを目指すという。
「運賃改善のきっかけに」
こうした動きに対し特積み事業者からは、おおむね歓迎する声が聞かれる。「当社も値上げ交渉に取り組んでいる最中。悪い要素ではない」(北海道・特積み)、「佐川さんの交渉成果が契機になり、運賃改善につながれば」(中部・特積み)。
いわゆる「抜け駆け」をする事業者が出てこなければ、業界全体の運賃アップが期待できる。ただ、「(値上げ前の)佐川さんと同条件で依頼してくる荷主はいる」(複数の特積み)ことから、不採算貨物が安く受けるところに流れる懸念は残る。
半面、長尺ものや重量物は、積載効率が落ちるだけでなく商品事故にもつながりやすい。場合によっては貸し切りで運ぶ必要もある。割に合わない運賃では、「あえて取る必要はない」のが大方の事業者の本音だろう。
「安い運賃では応じない」
取材では、「うちはうちの運賃でやる」(北信越・特積み)、「不採算貨物だけを受けるのではなく、同じ荷主の貨物は一手に引き受ける交渉をする」(北海道・特積み)など、強い姿勢で臨むとの声が多勢。特積み各社が加盟する日本路線トラック連盟も、「大手、中堅で、積極的に受けているという話は聞かない」とコメントしている。
背景に人手不足問題 輸送品質への要求も
佐川急便が進める値上げと不採算貨物撤退。ある大手特積みトップは「ドライバー不足への対応では」と指摘する。
特積み事業者の人手不足は深刻。中でも集まらないのはドライバーで、地域によっては「募集に全く応募が無い」ことも。「(人材確保には)労働環境を整え、給与も良くしなければならない。そのための利益重視の側面があるのでは」(同トップ)。他の事業者からも、「どこも人手不足。薄利多売はもう無理」「社会保障などコストが掛かり、しっかり運賃を取らないとやっていけない」の声。
長尺もの撤退で品質は向上
長尺ものや重量物など不採算貨物から手を引くことは、効率化だけでなく輸送品質向上にもつながるという。「以前はパイプ類と段ボールに入った荷物を混載していた。いまは段ボール自体が商品とみなされ、少しの傷でも返品になる。別の車、別料金でやるしかない」(北海道・特積み)。
同社は平ボディーユニック付きの専用車も準備。長尺もの限定の積み合わせや、チャーター便の対応もしている。
人手不足や品質面での要求の高まりから、運賃是正機運は高まっている。「荷主の足元を見る訳にはいかない。効率化と並行して、運賃アップを交渉する」(複数の事業者)が基本だが、「まともな運賃を払えない荷主は淘汰(とうた)される時代」(同)なのかもしれない。(藤本 裕子)