渋沢倉庫▼今井 恵一社長インタビュー 
2013年09月12日【輸送経済(http://www.yuso.co.jp/)】
ことしから4カ年の新中期経営計画を開始した渋沢倉庫(本社・東京)。6月には今井恵一社長をトップとする新体制も始動した。目標達成に向け、今井社長がポイントとするのが「グローバル時代に顧客の考えを先取りした提案力」。ソフト、ハードの両方を充実させることで、収益力の強化と高い効率性を実現する。
――目指す企業の形は。
今井 「従業員の和」を大切にしたい。物流の品質無くして経営は成り立たない。実現には従業員が働きやすい職場をつくることが不可欠だ。社員のアイデアを吸い上げたり、女性社員の活用を進め、活力ある現場を目指す。
――入社以来、これまでどのような仕事を。
今井 転勤が多く現場での仕事が長かった。航空以外はほとんど経験させてもらった。現場には「こうした方がよい」という考えが必ずある。営業を強化するには「顧客が求めるもの」を足で稼ぎ、しっかり提案できる人の育成が欠かせない。
――人材育成がさらに重要になる。
今井 グローバル時代では顧客の考えを先取りし、提案ができなければ競争を勝ち抜けない。今後は物流を可視化して提案できる社員の育成が重要になる。新入社員や3年生教育などに加え、海外研修を充実させモチベーションを高めていく。
高齢者向け商品も拡充
――新中計ではどの分野で事業拡大を目指す。
今井 東名阪の3大都市圏では消費者向けの貨物が好調。今後はインターネット通販などBtoC関連の取り扱いも増やしたい。少子高齢化を見越し高齢者をターゲットとしたサービス拡充も急務となる。
――高齢者向けサービスの具体的な内容は。
今井 高齢者は老人ホームの入居手続き、重い家具の移動といった点で苦労することが多い。身の回りのお手伝いをするサービスの需要はこれからも期待できる。引っ越し事業などと絡め、事業を拡大させていきたい。
――引っ越しでは特長的なサービスも。
今井 これからはモノの輸送、保管だけでは成長できない。効率的で快適なオフィスのレイアウト、引っ越し、文書保管などをパッケージで提案することが重要になる。新中計の間に、現在約18億円ある引っ越しの売上高を20億円以上に引き上げていく。
施設も付加価値高める
――拠点整備では横浜、大阪で建て替え工事を進める。
今井 これも顧客の需要を先取りした動き。大阪の茨木倉庫は京都、神戸を結ぶ重要な配送拠点。横浜の恵比須町倉庫は物流だけでなく、研究所などを併設することで顧客に「物流プラスワン」の施設を提供する。
――物流施設に研究所などを併設する狙いは。
今井 以前から付加価値のある物流施設をつくる構想があった。横浜は好立地で複合施設に対する顧客からの問い合わせも多い。来年には大阪と横浜の倉庫の1期工事が終了する。その後予定する2期工事は検証し、着工時期を考える。
――ことしは海外でも大きな動きが。
今井 6月の広州分公司に続き、9月にはフィリピンに駐在員事務所を開設。マニラ―日本間に加え、中国、ベトナムとの自動車部品の3国間輸送も展開する。
――競争が激化する海外で事業を伸ばす鍵は。
今井 顧客の需要に対応するには陸送、フォワーディング、保管などあらゆるものを手掛けていかないといけない。状況によってはM&A(企業の合併・買収)も必要になる。また、現地社員の登用で日本人が気付かないローカルな目線も取り込んでいく。
記者席 「現場の和」を第一に
入社以来、全国の現場を渡り歩いてきた。平成28年に創業120周年の節目を迎えるのを前に、経営の重要なかじ取りを任せられた。
座右の銘は「和を以て貴しとなす」。長く現場を経験してきたからこそ、従業員が一丸となって力を合わせないと企業が成長できないことを知っている。
「現場に活力が無いと物流会社とはいえない」。働きやすい職場づくり、顧客の需要を先取りした提案ができる社員の育成。これらを進める原点はこの1言にある。
休日は時間があれば、俳句をたしなむ。「5・7・5の世界に自分の気持ちを入れ、相手に読み取ってもらえることが魅力」。現場も言葉で伝えなくても全社員が同じ目標に向かって突き進む企業を目指す。
(経歴)
今井 恵一氏(いまい・けいいち) 昭和25年9月17日生まれ、62歳。福岡県出身。48年青山学院大法卒、渋沢倉庫入社、平成21年取締役上席執行役員、23年常務上席執行役員、24年取締役常務執行役員、25年6月社長に就任。(小林 孝博)