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迫る宅配王者、物流戦争は新局面へ▼ネット通販が宅配を変える 

2014年02月18日

輸送経済

 インターネットを通じて個人が商品・サービスを購入するネット通販――。その急拡大を支えてきた宅配便市場に異変が起きている。最大手ヤマト運輸が圧倒的な輸送品質を武器にネット通販貨物を積極的に取り込む一方、ライバルの佐川急便は拡大路線を転換。運賃適正化を理由にネット通販大手アマゾンとの業務を解消するなど、不採算貨物の取引見直しに踏み切った。物流の受け皿が減れば、ネット通販そのものに影響を与えかねない。
 経済産業省によると、平成24年の消費者向けEC(電子商取引)市場の規模は9兆5000億円と、20年の1.5倍に伸長。野村総合研究所が昨年発表した予測では、今後5年間にさらに倍増する見通し。30年度には20兆円を超える。主に食品やファッション、医薬品の市場が伸びるという。
 追い風となるのは翌日配送、当日配送に代表される物流インフラの整備。共働きや子育て世代が利用者の中心だった「ネットスーパー」も、品ぞろえの拡充や配送インフラが整うことで、利用者の幅が広がるとの見方だ。

翌日配送、当日配送が普及

 市場規模拡大は物量増加を意味する。日通総合研究所の小松隆経営コンサルティング部長は、近年のネット通販について「物流に与えた影響は大きい」と話す。
 最も大きな変化は翌日配送、当日配送サービスの普及。注文から届くまでの時間を短くし、利便性を高める狙いが通販会社側にはある。実のところ、利用者側はリードタイムにそこまでこだわらないとの調査結果も。とはいえ、「『他社にできることが、自社にできない』のは通販会社にとって危機感」(小松部長)。物流企業にも、リードタイム短縮への対応が求められてきた。
 再配達の増加も影響の1つ。「不在で持ち戻りが多い」(同)通販貨物への対応策として、届け先への事前連絡、時間帯指定、コンビニ店頭で宅配便が受け取れるサービスなどを各社が展開する。

佐川はシェアより適正運賃

 平成22年に日本通運の「ペリカン便」が、日本郵便(JP)の「ゆうパック」に引き継がれて以降、宅配便はヤマト運輸と佐川急便の2強時代に入った。が、ここへきて状況は変わりつつある。大量発注による値引きを求められるネット通販貨物に対し、2強のスタンスに違いが出始めた。
 運賃を下げて荷物を取りに行くことで宅配便の取扱個数を伸ばしていた佐川は方針転換。おととしから昨年にかけ運賃の適正化を顧客に交渉した。昨年4~9月の主力商品「飛脚宅急便」の取扱個数は1割減ったが、宅配便を中心とするデリバリー事業の業績は大幅に改善。今後は、「高い採算を保てる貨物の取扱を増やしていく」(SGホールディングス)とし、シェア争いから1歩引いた構えをとっている。
 逆に昨年4~9月、取扱個数を1割以上伸ばしたのがヤマトの「宅急便」。ヤマトはネット通販貨物の取り込みに積極姿勢。昨年稼働した羽田、厚木の大型物流施設に続き中部、関西にも同規模の施設稼働を予定。4施設合わせ2000億円の大型投資で、ネット通販物流の付加価値となる当日配送を、関東・中部・関西の大都市間に広げる構想を打ち出している。佐川は当日配送のための大規模なインフラ整備は行わないとの構えで、当日配送に関する限り、ヤマトの独占がほぼ決まったように見える。

物流の受け皿足りなくなる

 通販業界からは、ヤマト1極集中を懸念する声が上がる。価格決定の主導権を奪われる危機感に加え、「ヤマトがパンクした時にどうなるのか」(日本通信販売協会)との不安がある。
 今後、市場規模が予測通りに伸びた時、物流の受け皿がヤマト1社で足りるのか、という問題も出てくる。ネット通販の物流で必要なのは、消費者の個人宅へ届けることのできるサービス。かつては百貨店から個人への配送を手掛ける事業者も多かったが、この10年で大部分がヤマトに移行。「チャンスはあっても、できる事業者が限られる」(日通総研の小松経営コンサルティング部長)。通販業者がヤマトに頼るのをやめたければ、「地場の運送業者を使って自力でネットワークを構築するしかない」(同)。その際、リードタイムなど配送レベルが下がるのは止むを得ないという。

宅配がネット通販を変える

 「家にいながら欲しいものが買え、あっという間に届く」。ネット通販は、物流サービスを常に向上させることで、利用者の支持を集めてきた。その最たるものは、アマゾンが火付け役になった「送料無料」だろう。
 だが、この「送料無料」も「後戻りする可能性がある」(小松部長)。拡大する物流の受け皿がないまま、ヤマトへの1極集中が続けば、通販会社はヤマトの値上げを飲まざるを得えない。送料への転嫁を考えなければならなくなる。「そうなった時、送料に見合わないものは売れなくなる。ネット通販自体が成り立たなくなるだろう」(同)。(藤本 裕子)

BtoBは順当な戦略 岡田 清 成城大学名誉教授 宅配拡大に危機感か

 ヤマトのBtoB進出の狙いは何か。1つには、宅急便事業の拡大が天井にぶつかっている、あるいはそれを恐れている可能性がある。ライバルだった佐川急便はtoC市場から降りた。従来の宅配が頭打ちであれば、BtoBに行くしかない。
 ヤマトの弱みは対個人の業務が主で、荷主との接点が少なかったこと。そのため、近年営業力の強化に力を入れてきた。この点は、提携会社でもある米国UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)社の戦略を参考にしていると思われる。
 ヤマトは元来、宅急便を通して輸送ネットワークを最大の財産とし、その価値を非常に重視してきた。「広げれば広げるほど儲かる」との考えにより、いま全国に張り巡らされた拠点網でヤマトを超えるのは日本郵便くらい。だが、宅配荷物の量には限界があるし、山の奥まで宅急便を運ぶのでは、儲からない。
 物流で収益を上げる基本は〝儲かる荷物を運ぶ〟こと。企業規模で見ると、大企業より中小企業を相手にする方が大幅な値下げをされにくい傾向がある。宅配で培った信頼を生かしてBtoBに参入すれば、ついてくる荷主はいる。通販関連業務で関係のある荷主には中小規模の企業も多く、一定の収益性も見込まれる。経営戦略上、順当な戦略といえる。(文責・村山 みのり)