熱中症の危険、物流にも▼25年、運転中1人死亡 荷役、作業時も要注意 
2014年06月18日輸送経済新聞社
「熱中症に即効性のある対策はない」と厚生労働省。ことし早くも関東地方で30度を越える日が続き、各地で病院に搬送される人々が出ている。物流事業でも体調管理は欠かせない。環境省は「暑さ指数」を出して注意喚起をしている。暑さを乗り切るためにも事業者、作業員一体となった取り組みが求められる。
厚労省によると昨年仕事中に熱中症で死亡した事例は30件。そのうち運送業は1件。最も死亡者が多かったのは建設業で9件だった。厚労省は作業に応じた指標「WBGT基準値」を作って対策を呼び掛けている。
運送業での事例は、対向車と衝突も起こした。運転中に発症する危険性がうかがえる。運輸業以外にも小売・卸業や清掃業でもトラックやミキサー車など運転に関わる事例があり、物流業務の至る所に熱中症の危険は潜んでいる。発生件数が10年以来最も多かった22年の職業別の統計を厚労省がまとめたところ、物流業の熱中症発生件数は全体の14%。建設業、製造業に次いで3位だった。
進む建設業の取り組み
厚労省や環境省はこの数年の猛暑を受け、屋外作業主体の建設業などで対策を進めてきた。
建設業労働災害防止協会では「熱中症予防指導員研修」を行い、熱中症の防止に努めている。
建設大手の竹中工務店では、熱中症の増える6月に先立ち注意喚起を始めた。(1)現場への大型の送風機やミストコーナーの設置(2)製氷機やスポーツドリンクの自販機の設置(3)ヘルメットに着ける熱除け布やネックガードなど装備を暑さに対応したものにする(4)休憩時間や水分補給時間の設定(5)声掛け(6)ポスターの掲示――などを周知。
「熱中症は、注意しても気候で起こってしまうため対策の具体的な効果が見えにくい。日頃の地道な取り組みを全社一丸で徹底している」(竹中工務店)。
荷主にも協力要請し対策を
物流業は1人作業や長時間労働、納期が厳しく休憩が取りにくいことなど「業態によっては対策が難しい」(厚労省)。また荷主の倉庫など訪問先での作業が多いことにも危険が潜むという。厚労省は「休憩を取りながらの作業や暑い時間を避けて作業することが望ましい。納品先の理解が必要になってくる」とする。
空調の利かない車内での長時間待機も危険だ。エンジンと車内空調を止めなければいけない場合では、休憩室の活用など、荷主の積極的な協力が不可欠。「車内のエアコン故障が原因の熱中症死亡事故もあった」(同)。
昨年の職場での熱中症死亡者30人のうち11人が単独作業。運転手も1人作業が多い職場。「荷主、物流企業、作業者それぞれが情報を共有し合って熱中症予防に努めてほしい」(同)。
〝1人作業〟は高リスク 労働安全衛生総合研究所 澤田 晋一氏
熱中症は暑さ指数が高いと、持病や深酒、下痢などささいな要因でも発症の危険性が高まる。1人での作業が多いドライバーは異変に気付いてくれる同僚がおらず発見が遅れるので、重症化しやすいだろう。発症したら時間との戦い。筋肉のけいれんやめまいは運転に障害を来す。目まいやしびれを感じたらすぐに路肩に停止し救急車を呼ぶこと。待っているときは足を頭より高い位置に持っていったり、水分と塩分を補給するのが望ましい。
積み降ろしなどの作業中は小まめに水分をとること。喉が渇いてから水分を取るのでは十分な水分を摂取できない恐れもある。20分から30分にコップ1杯程度の水分摂取が必要だ。私の行った模擬実験では酷暑下で1時間作業した後でも汗をかいた量の半分も水分を摂取できなかった。塩あめを活用する場合一緒に水を渡すことも心掛けてほしい。
まずは会社が作業レベルや持病、体調について事前に面談をするなど作業員ごとに対策を取る体制が必要だ。情報についても厚労省、環境省、労働安全衛生研究所のホームページを活用してほしい。(文責・佐藤 周)