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CRE戦略再考 ~日本郵政の動きから~ 

日本郵政が野村不動産の買収を断念したと発表され、話題になってからしばらく経つ。

2017年3月期の決算では民営化後初の赤字に転落した日本郵政。赤字額は289億円だが金額自体はあまり話題にならず、赤字の主要因であるオーストラリアの物流企業・トールホールディングスへの投資失敗だけがクローズアップされたように思う。この失敗による減損は約4000億円。日本郵政の連結売上14兆円から見ればたいしたことはない、というわけでもないのだろうが。

本業の業績が伸び悩むなか、新たな収益の柱を望むのは企業として当たり前の発想だ。海外の物流企業に目をつけたまではよかったが思うように業績が伸びず、期待された郵便事業とのシナジーは生まれる気配すらなかった。そもそも買収からわずか2年であきらめざるをえない状態に陥るようでは、稚拙な買収といわれても仕方ない。事業構想の練り直しは喫緊の課題だ。

それ以前、日本郵政グループでは民営化後の多角化経営の目玉のひとつとして、不動産事業に大きな期待をかけていた。その嚆矢となった「JPタワー」が竣工したのは2012年。日本郵政グループ流不動産開発のベンチマークとされているが、実際は日本郵便と三菱地所、JR東日本との三者共同プロジェクトで、PM業務にも三菱地所系管理会社が関わっている。今年4月竣工の第2弾「JPタワー名古屋」も日本郵便と名工建設との共同開発で、PM業務は東急コミュニティーが請け負う。日本郵政としては実績を積み重ねることで不動産開発のノウハウを習得したいという思惑があるようだが、資金調達から開発、リーシング、運営まで自前でまかなうのは、1件や2件の経験ではとても無理だろう。道のりはまだまだ遠そうだ。

もともと日本郵政は、膨大な不動産を保有している。その価値1兆5000億円は上場企業で6番目という試算もある。これだけの不動産を活用するのに他社の力ばかり借りていては機会損失につながる。しかし自前でやるノウハウはない。となれば、ノウハウを持つ企業を傘下に収め、そのスキルを取り込むのがもっとも手っ取り早い。今回の野村不動産買収構想はなんとか自分たちで不動産事業を確立させたいという日本郵政の強い意志が生んだものであることは間違いない。ノウハウの取り込みという点で見れば、むしろごく真っ当な解決策でもあったのだ。だから、日本郵政がこれで不動産事業の確立をあきらめるということはないだろう。もっとも多少の方向転換を迫られたにはちがいないが。

日本郵政のこれら一連の動きは、CRE(企業保有不動産)をどう活用するかという課題に対し答えを出そうとした結果だ。そしてこの流れは、不動産経営とは無縁だった土地オーナーが自前でビルやマンションを建てるという、バブル期に見られがちな不動産投資話とほとんど変わるところがない。本業も伸びが見込めないし、せっかく持っている土地を何とか活かしたい。でもノウハウがわからいから、デベロッパーに頼んでやってもらおう。規模は違えど、これとまったく同じ構図といっていいだろう。

結局のところ、ノウハウがない者が自分で不動産を活かすなどというのは無理な話なのである。日ごろ不動産の活用を勧める筆者の意見と矛盾しているように見えるかもしれないが、そうではない。不動産の活用は大いに進めるべきだ。だがそのためには、前もって不動産の知識やノウハウを学んでおく必要がある。知識ゼロ、ノウハウゼロでは、かえって無駄なコストを支払う羽目になる。日本郵政グループだって、何とかして不動産のノウハウを習得しようとあえいでいる。その結果が野村不動産の買収話というかたちであらわれたのだ。

自前での開発がむりでも、CRE活用策はほかにいくらでもある。例えば証券化。日本郵政グループはリートへの投資を前向きに検討するとの話もあった。いっそのこと、日本郵政が保有する不動産をポートフォリオとするリートを組成すればいいのにと思うのは素人考えか。そこまでいかなくとも、私募リートでもでもいいし、もっと私的なシンジケートを組んでもいい。新たな開発が無理なら、郵便局の建物をそのまま賃貸したっていい。これだけ物件をもっていれば、サブリースだっていい。アプローチを変えれば、得意分野を生かした不動産活用だって可能だ。日本郵政の得意分野といえば郵便だから、物流と同じ線上にある。となると物流不動産だが、これは手強くなりそうだ。

日本郵政グループに限らず、CRE対策としてできることはまだまだ残っている。不動産をよく知ることの大切さを、あらためて噛みしめている。

 

久保純一 2017.07.20