延 嘉隆の物流砲弾<9>かかってこい物流子会社! ~“自信”がある物流子会社経営陣の連絡を待つ~ 
前回、“物流子会社”について書いたので、少し、物流不動産からは離れるが、筆者の認識を記しておきたい。前回連載でカチン!ときた物流子会社経営陣の方に、是非とも、目を通して頂きたい内容となっている。
物流子会社の価値とはなんぞや?という素朴な疑問
2010年10月、月刊「ロジスティクス・ビジネス」で、「さよなら物流子会社~“子会社大国”ニッポンの夕暮れ~」という刺激的な特集が組まれた。長きに渡り、「消える」「消える」と言われ続け、未だ、無くならない“物流子会社”。前回、物流業界におけるその発言権の強さについては触れたが、筆者の見方を述べておきたい。
最初に、誤解なきように述べれば、“物流子会社”の方々は、とてもよく勉強されており、日々の改善活動、コスト意識など、頭が下がる思いだ。また、キャリアやリテラシーも相応に高く、その意味で、物流業界のオピニオンリーダーとしての存在感も納得出来るものがある。
しかしながら、自社でオペレーションをしていない物流子会社の「物流企画」や「物流管理」といったものの実相に触れるたび、「何の価値があるのだ?」と思うことも多いし、“3PL”も含めて、そのようなレトリック(詭弁)は破綻しつつあるのではないか・・・というのが筆者の見方だ。
物流業界におけるM&Aの人気ターゲット
“物流子会社”は“買い”なのか?
ここで、ビジネスの基本、「投資とリターン」という視点で物流子会社を考察してみる。
物流子会社の方と話す時、大半の場合、「親会社のビジネスがこのようなビジネスなので、このような物流に強みがある」というストーリーでその強みが語られる。無論、それはそうだろうし、逆説的にいえば、そうで無ければ、それこそ存在意義が無いことになる。
しかし一方で、あらゆる業界に先んじた改革・改善を講じる自動車や製造業などでは、既に、物流子会社を手放した例も多い。物流子会社が売却される際には、ニュースとなり、話題に上がるが、その後について聞く機会はほとんど無い。
「壁に延あり、障子に延あり」と“地獄耳”を自負する筆者の耳には、概ね、“高掴み”、あるいは、“のれん地獄”と揶揄され、グループ内(社内)で煙たがられている声が聞こえてくる。無論、例外もある(のかもしれない)。
現場の業務の話はともかく、企業単位で“物流子会社”のその後・・・を見たとき、子会社を買って激烈にハッピーだったという声は少ない。それなりに形になったとしても、長い年月を掛けて、PMI(Post Merger Integration)に勤しんだ・・・というのが実情ではないだろうか。今のところ、親会社のベースカーゴ目当てで買った物流子会社は“ババ”であったことの方が多い。買収した各社がこれほどやらかすと、今後、“高掴み”トレンドが落ち着き、理論上は、相応の価格に収斂される筈だが、コンプレックスに苛まれた専業者が親会社のブランド力に惹かれた“高掴み”、“背伸び”は続くのかもしれない。
“物流子会社”は、“敵”のプレッシャーが無い
“練習”でのパス廻し
一言いえば、「投資」と「物流ビジネス」の観点で物流子会社を見た場合、手放しで投資でき、企業価値を倍増出来る物流子会社はさほど無い。物流子会社は、親会社のベースカーゴの確保という点においては秀逸だが、サッカーに例えるなら、所詮、敵のプレッシャーの無い練習でパス廻しをしているに過ぎない。ゆえに、獲った・獲られたという攻防のなかでプレーしている専業者と実戦で戦わせると勝負にならない。ディフェンスのいない練習でシュートを決めることが出来ても、実際の試合で活躍出来るとは限らない。そういう話。物流子会社は、総じて、管理コストや人件費が高い場合が多く、そもそも損益分岐点が高くなりがちという点は否めない。
筆者が考える“アリ”な物流子会社の条件
“物流子会社”を十把一絡げに捉えるのも乱暴だと思うので、筆者が考える機能性として“アリ”だと考えるケースを明示しておきたい。
・ 親会社のビジネスの仕組みに占める物流の要因が大きい
・ “ロジスティクス”が親会社のビジネスにおける主たる競争要因である
・ 専業者がやりたがらないような内容・コストの業務を手掛けている
・ 自社でエンドに届けることがサービスの一貫であると明確に定義されている
・ 総合商社のように、親会社に色合いが異なる複数のビジネスがあり、
そのロジスティクスを手掛ける機能会社とキチンとした定義がなされている
・ (筆者は好ましいと思わないが)半分リストラ(人員整理)的な意味合いにおいて、 メンタル・パワハラ・セクハラ・使えない社員の“島流し”先、あるいは、
親会社経営幹部の実質的な天下り先・定年先延ばしの方策 など
細かなことをいえば、他にもあると思うが、ザックリとこんな感じではないだろうか。
“変わる勇気”がある物流子会社への挑戦状
前回・今回と、誇り高き物流子会社経営陣にとって、カチンとくることばかり書いてきたと思う。無論、言葉足らずも多々あり、(極めて少なくはあるが)例外もあるので、必ずしも筆者の見立てが合致しない部分もある。その点は率直にお詫び申し上げるが、物流業界に蔓延する「価値を生み出さない自己満足の議論」「感情の議論」に付き合う気は無いので、その手の輩は、連絡はせずに、「ロジラテジーの延は勘違い」と一蹴して頂ければ幸いである。
しかし、万が一、読者のなかに、筆者の指摘を“図星”と受けとめ、植民地支配的な状況から「変わる勇気」がある物流子会社経営陣に提案をしたい。
筆者のビジネスにおける向き合い方のスタンスは、DOY(だったら・お前が・やってみろ)原則。(おそらく)何十億円にも及ぶファイナンスのサポートをするので、親会社経営陣に「MBOさせてくれ!」と、あなたの“自信”や“気概”とやらを見せて頂きたい。
今、あなたがいる、決して弾が当たることの無い“安全地帯”から飛び出し、借入リスク、労務リスクなど、あらゆる経営責任を背負って、正々堂々と、企業経営にチャレンジしてみて欲しい。あなた方が目下として使っている専業者と伍して、その実力を完膚なきまでに発揮してみて頂きたい。
但し、誤解をしないで頂きたい。全ての物流子会社にその価値は無い。おそらく、この判断は、ぬるま湯に浸かっているあなた方には出来ない。筆者と筆者のブレーンで、「御社がイケるか、イケないか」を判断してやるので、現実と真正面から向き合う勇気がある経営者の方からの連絡を待ちたい。
しかし、結果は見えている。そんな“気概”を持った物流子会社はまずない。「親会社の意向が・・・」と、“親会社”をエクスキューズに、独立の気概を示すことにチャレンジすらしないだろう。それが、物流子会社の“限界”だ。にも関わらず、弾が当たらない安全地帯にいるにも関わらず、大上段に、聞きかじった横文字を使って、大上段にサプライチェーン・ロジスティクスを説く。時に、専業者を詰(ナジ)るというのが実態ではないだろうか。
親会社の経営が順調なら、今を謳歌し続けることは出来る。しかし、蒼々たる日本を代表してきた企業の凋落が叫ばれる今日、その栄華がいつまで続くのかは誰にも解らない。そして、不景気のたび、物流子会社は捨てられてきた。次の景気減退フェイズも、おそらく同じ光景となる。同時に、年齢やポストによっても利害関係や思惑は異なる。あなたが、親会社に捨てられる前に逃げきれる年齢なのか、捨てられた後に専業者に引き取られ“のれん地獄”と揶揄されるのか、その運命は神のみぞ知る。
須らくは、あなた自身の人生、そこそこ、いい待遇の今に甘んじ物流ゴッコを続けるのか、独立を希求し、真の自由を勝ち獲るのか、それはあなた自身で決めることだ。いない・・・とは思うが、万が一、“独立の気概”のある方がいたら、一報頂きたい。大半のそうではない方におかれては、ハンパ者がイキってる姿はムカつくので、どうか、デカいツラだけはしないで頂きたい。
●延嘉隆氏プロフィール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
株式会社ロジラテジー代表取締役。
物流企業経営の視点で、財務戦略(事業承継・M&A・企業再生)・マーケティング戦略を融合し、物流企業の価値を上げる物流コンサルティングファームとして評価が高い。
物流企業を中心に、事業承継・相続、物流子会社の売却など、“ロジスティクス”、“卸”、“小売”などの財務課題で、卓越した経験を有する一方で、物流現場に作業員として入り、作業スタッフとの対話に勤しむ一面も。延氏の詳しいプロフィールはコチラ。