鉄道会社は不動産で儲ける 
「維持困難路線」という言葉が一般化してきたのはここ2~3年だろうか。JR北海道をはじめとする赤字鉄道会社の実体が知られるにつれ、鉄道路線経営の困難さもクローズアップされてきた。少子化で人口が減少すれば、乗客は減る。ごく当たり前の理論である。そこで(実際にはそう単純なものでもないのだが)大手鉄道会社が力を入れているのが、不動産経営だ。ちなみに本稿では、マーケットが異なる住宅賃貸は基本的に除いてある。
例えば、日本で最も営業収入の大きな鉄道会社である東日本旅客鉄道(JR東日本)の売り上げは2兆8808億円(2017年3月期)。そのうち不動産賃貸関連収入は2805億円に達する。実に収入の10%を不動産収入でたたき出しているのである。不動産収入で見ると、JR東日本より大きな数字を挙げている不動産会社は三井不動産と三菱地所、住友不動産の3社だけだ。
鉄道会社の営業収入について、不動産収入の大きな順に挙げてみる。かっこの中の数字は収入に占める不動産収入の割合である。
東京急行電鉄 営業収入:1兆1173億円 不動産収入:1722億円(15%)
西日本旅客鉄道 営業収入:1兆4414億円 不動産収入:1095億円(7.5%)
阪急阪神ホールディングス 営業収入:7367億円 不動産収入:1040億円(14%)
東海旅客鉄道 営業収入:1兆7569億円 不動産収入:686億円(4%)
九州旅客鉄道 営業収入:3829億円 不動産収入:674億円(17%)
名古屋鉄道 営業収入:5995億円 不動産収入:523億円(8.7%)
これらの鉄道会社の不動産収入規模は、不動産賃貸マーケット全体でも20位以内に入っている。鉄道会社の持つ不動産の大きさがいかに大きなものかわかるだろう。
現在、多くの不動産会社が各地で開発を推し進めており、鉄道会社も例外ではない。一部でささやかれる東京オリンピック後の「景気の崖」が来る前に、余力のあるうちに投資しておこうという思惑も読み取れるが、その預託先に不動産開発が選ばれるあたり、不動産への期待の高さを感じる。
それはさておき、昨今の開発において特徴的なのが1件あたりの規模の大きさで、大規模開発ラッシュといっていい様相を呈している。いずれも昨今トレンドとなっているのが「立地をつくる」という概念。立地に負けない物件をつくるといっても、競合物件がより好立地にできればカスタマーを奪われるのは自明の理。であれば、競合されないような「立地」を開発によってつくってしまおう、という考えだ。いわゆる面開発だが、鉄道会社は沿線における宅地開発を長年にわたって行ってきた経験がある。しかも鉄道という公共交通手段を自前で持っているのである。オフィスビルであれ商業施設であれ、交通アクセスというハードルを楽々クリアできてしまうのだ。やはり交通インフラを持っているというアドバンテージは大きい。
さて物流はというと、保有しているアセットの大きさのわりに収入がともなっていないといっていい。開発には立地がよくないという話はよく聞くが、物流倉庫は道路交通の面でいえば決してアドバンテージは低くない。むしろ自由度の高い立地である場合が多い。不動産は本業ではないなどという話に至ってはもはや・・・。鉄道会社だって、不動産は本業ではありませんよ。
久保純一 2018.3.5