フジサンケイビジネスアイ(4)金融緩和がもたらす先進物流施設開発 
イーソーコグループ 会長 大谷 巌一
日銀の異次元金融緩和がもたらすマイナス金利は、物流施設の開発に影響を与え、金融業と不動産業を横串で通す「物流不動産ビジネス」の追い風となっている。2006~15年の平均で約17万坪だった国内の先進物流施設(延べ床面積1万坪以上)開発はバブルの様相を呈し、17~20年の開発合計は約123万坪、年平均で約31万坪が新規供給されるとみられる。インターネット通販市場による需要拡大への対応が一気に進む。
日本での物流施設開発の転換期は外資系不動産デベロッパー、米プロロジスが参入した02年だ。第1号案件を東京・新木場に開発し、外資の物流大手会社がテナントとして入居した。国内の物流会社は、「あの巨大な箱に合う貨物はないだろう」と対岸の火事のように見ていた。日本では貨物量から物流施設の規模を逆算するのが慣習であり、常識外の動きとして捉えていた。
外資系不動産デベロッパーと国内の物流会社の違いは運用資金だ。日本の物流会社は金融機関からの「間接金融」で施設を開発するので、金利、償却、収支のバランスを考え、自社(当事者)事業として倉庫業や賃貸業で利益を得る。これに対し、投資ファンドを運用する外資系は間接金融を軸に「直接金融」を組み合わせ、物流施設を金融商品と捉える。投資家から集めた資金を投資し、賃料収入などで得た利益を投資家に分配する投資信託となる。マンション、オフィス、商業施設を対象とした投資ファンドに新たに物流施設が加わり、「J-REIT」として上場することで資金が流入するようになった。
倉庫用地の取得価格でも違いが見られた。当時、物流企業は使いやすい平屋倉庫(容積率50%程度)を想定し、取得価格の坪単価を割り出していた。しかし外資系は大規模用地の公募入札に対し、数倍もの高値で落札した。
土地価格を決める重要なファクターとして容積率がある。容積率が50%と200%では、床面積に4倍もの開きがある。容積率いっぱいに施設を建設することで、多層階の保管スペースを確保でき、賃料でまかなうことができる。外資系は、この理論を実践した。上層階までトラックで乗り入れ可能な「ランプウェイ」を設置し、全フロアで1階と同じ作業を可能とする。貨物の上下階移動に専用エレベーターを使う必要はなく、上層階でも高賃料を得ることができる。
ランプウェイは「通路」であり、賃料は発生しない。通路の割合を最小限に抑え、賃貸部分の床面積の比率を高めて投資効率を高めることが、物流施設大型化の一因でもある。
REITのリターンは、一般投資家からのマネー供給と金融機関の資金の運用先として、異次元緩和の低金利が続く限り増加する。ファンドマネーにより、超大型で多機能かつ高い防災性を持ち合わせた先進物流施設は日本全国で開発されていく。
本稿は産経新聞社発刊「フジサンケイビジネスアイ」のBizクリニックコーナーで、大谷が3か月間連載中のコラムです。