JA-LPAセミナー▼「『令和』新時代の物流不動産」盛況裡に閉幕 
2019年10月20日日本物流不動産評価機構推進協議会(JA-LPA)は10月18日、日本通運本社で第13回セミナー「『令和』新時代の物流不動産~物流不動産の大きな曲がり角、今何が起きているか? その背景と未来予想」を開催した。約250名の来場者が集まった。
▲開会の辞であいさつしたJA-LPA望月代表(左)、河田委員長
冒頭、国土交通省都市局市街地整備課 拠点整備事業推進官の小川博之氏は「スマートシティ」を解説した。スマートシティとは都市の抱える交通、自然との共生、省エネ、安全安心、資源循環などの諸課題に対し、ICT等の新技術を活用してマネジメントを行う、持続可能な都市または地区を指す。
「これまではエネルギー効率化の個別分野特化型だったが、近年はICTや官民データ連携により、環境、エネルギー、交通、医療・健康等、複数分野に幅広く取り組む分野横断型」に変わってきたと小川氏は語る。シンガポールに事例では国全体でデジタル情報化を進め、都市開発などの情報を収集しているという。
国内事例として「スマートシティ会津若松」「柏の葉スマートシティ」「藤沢SST」を紹介。藤沢ではパナソニックの工場跡地に、タウンマネジメントを開始、街専用の配送センターとして、宅配会社から集めた荷物を集約、合理的な配送を進めている。
国交省では2018年8月、スマートシティの中間とりまとめを公表し、「技術オリエンテッド」から「課題オリエンテッド」への転換を目指す。
「都市に住む人のQOL(Quality of Life)の向上がスマートシティの目指すべき目的。持続可能な取組みとしていくためには、都市のどの課題を解決するのか、何のために技術を使うのか、まちづくりの明確なビジョンを持った上での取組みとすることが必要だ」と小川氏は語った。これまでは公共主体だったが、今後は公民連携で進める必要があると、小川氏は主張した。
講演では、国際競争流通業務拠点整備事業も紹介された。大都市の経済活動を活性化、大都市の国際競争力強化を目的に、国際港湾周辺等の国際物流の結節地域において整備を推進する。小川氏は東京団地冷蔵の補助事例を紹介、「来年度も募集を行うので、ぜひお声がけいただきたい」と小川氏が語った。
続いての講演は、日本政策投資銀行産業調査部課長の須釜洋介氏。「中国ニューリテールと物流技術の動向」として、中国に発生する、さまざまな“うねり”を紹介した。
端的な事例が2018年11月11日独身の日、大手EC事業者のアリババが1日で3,5兆円の売上を達成した。これは楽天の年間売上に達するもので、アリババの年間流通総額94億円でAmazonの倍額になるという。
中国の高度成長は、2014年に世界GDPに占めるウェート(PPPベース)で米国を超えた。規模の拡大に加え、産業構造や成長パターン(質)も変わっているなか、物流のありかたも大きく変化しているという。「2010年頃からサービス産業やECの成長により、生産物流から消費財を中心とする販売物流へシフトしていった」と須釜氏は述べた。
中国のEC市場は2010年頃から急速に拡大。近年伸びの鈍化が見られるものの、20%前後の伸びを維持している。小売売上高に占めるEC率は2010年の3%から、18年には18%へ大きく上昇、日米より遥かに高い。「ECの発展は宅配などの急成長をもたらし、中国物流の姿を大きく変えた」と須釜氏は語る。
物流市場規模は拡大の一途をたどり、足元では13.3兆元(約210兆円)の水準となった。物流カテゴリーで金額は変わるが、20兆円前後で横ばいしている日本とは10倍の規模。急成長する宅配取扱荷物量は500億個を突破し、世界の半数以上と言われる。
「中国の技術力は、日本の優秀な現場力とオペレーション品質のパートナーシップ構築を求めている。日本に進出している中国物流ベンチャーなどある一方で、物流以外の業種では日系企業が中国にイノベーションを取りに行く事例が出始めている」と須釜氏は述べた。
続いて、イーソーコ会長の大谷巌一氏は「令和と共に加速する物流不動産ビジネス」を講演した。
「物流不動産ビジネスに波が来ている」と大谷氏は主張、重要な産業社会のインフラ、物流と不動産が融合したビジネスコンセプトを紹介した。
その根底にあるのはイノベーションだという。書籍販売から開始したAmazonは人の家の本棚を自社倉庫として市場を形成、物流と物販を掛け合わせて伸長していった。
「同様に、物流と不動産が合わさったのが物流不動産ビジネス。本日の来場者250名のうち、物流関連の方は17%、不動産関連の方は35%、今後もコンソーシアム(共同事業体)で事業を盛り上げていきたい」と声高に主張した。
日本郵船 経営委員デジタライゼーショングループ長の鈴木英樹氏はJA-LPAセミナーに初登壇。「現実と妄想のあいだに… 新時代に向けたLogistics OSのUpdate」と題し、
世界中から天才が集まるシリコンバレー駐在で見聞したことや今後の展望を述べた。
最後に登壇したのは一級建築士事務所タカトタマガミデザイン代表の玉上貴人氏。自身が手掛けられた、物流施設のアメニティ空間デザイン事例を述べた。
そのデザインの根底にあるのは子供の行動だったという。「衝動を喚起する場所にしたい」と玉上氏は述べる。無機質で窓がない物流施設だからこそ、働く人のイマジネーションを呼びさまし、癒しの空間を与える手法を明かした。モノを扱う物流不動産で人にターゲットにした玉上氏の視線は、多くの聴講者の同意を得ていた。
国策から中国の物流市場、そして物流不動産に関する民間の動きまで、ソフトハードから紹介され、同セミナーは盛況裡に終了した。