実践ロジスティクス研究会・物流不動産部会▼物流施設にもコスト可視化を 
2009年11月03日 実践ロジスティクス研究会(鈴木邦成会長)はこのほど、「物流不動産部会」(座長・鈴木邦成氏、運営・木村博之氏)を設立。10月21日東京都内で、第一回セミナーを開催した。
同研究会は12年にわたり、物流実務の研究活動を行ってきた。物流の実務に精通した人が集まり、これまでグリーン物流、3PL、物流改善、トヨタ式改善などをテーマに研究を行っている。
物流不動産については、物流業者側はこれまで「ファンド企業が施設を建てるのが物流不動産」と一面的な要素ばかりを見る傾向が強かったが、新設された物流不動産部会では、①LPM(ロジスティクスプロパティマネジメント)、②マクロ市場分析、③建設、④実務―といった4つの視点から物流不動産を総合的に捉え直し、物流業者にとっての最適化のための有力ツールの1つとして活用できる人材を養成していくことを目的にしている。
▼LPMとは物流不動産施設の収益最大化を図る業務
第1回のセミナー講師は、トーウンの木村博之氏が務め、「ロジスティクスプロパティマネジメント(LPM)」と題し、物流不動産のプロパティマネジメント(PM)について解説した。
(「倉庫会社は補修を図り、長持ちをさせることで収益を上げていく文化を持つ」と木村氏)
木村氏は賃貸マンション・オフィス分野のプロパティマネジメントを手がけ、中国で総額600億円の不動産物件を扱った経歴を持つPM分野の専門家。現在は東京運輸倉庫、イーソーコグループ出資の物流不動産専門のプロパティマネジメント(LPM)会社「トーウン」にて管理物件に携わっている。
講演の中で木村氏は、「LPMとは倉庫オーナー、テナントの双方に立場に立った事業者視点を持った代理人として、物流不動産施設の賃貸収入・稼働率を上げるともに、支出を下げ、収益最大化を図る業務」と解説。「倉庫会社は補修を図り、長持ちをさせることで収益を上げていく文化を持っており、メンテナント管理やコスト管理、収益性を高めていく手法であるPMは重要な要素」と述べた。
その上でLPM事業を推進する上では、①リーシングマネジメント、②テナントマネジメント、③キャッシュマネジメント、④物流施設マネジメント、⑤ファシリティマネジメント―の5つの要素に心がけていかなければならないと説いた。
ここであげられた5つの要素とは具体的に次の業務から成る。
①のリーシングマネジメントは、オーナーの立場に立ったリーシング活動を進めていくこととともに、物流企業の立場に立った立地選定などのアドバイスも同時に進めていく業務。
②のテナントマネジメントは、入居後の施設管理で、ここではオーナーの立場に立ったテナントに向けた折衝管理、工事管理、原状回復業務、賃料の督促業務などを行うとともに、テナントの立場に立った貸主との折衝業務、クレーム対応、入居中の工事対応などをこなしていく。オーナー、テナント双方にとってわずらわしい交渉業務を、PLMを入れることでスムーズに行えるメリットがある。
③のキャッシュマネジメントは、物流施設のキャッシュフローを管理する業務。請求書作成業務、経費処理・支払い代行業務、入出金・口座管理、月次運営・会計請求書作成を代行する。
④の物流施設マネジメントは、定期清掃・設備点検・警備の管理業務を代行し、コストの査定を図る業務。従来型の倉庫では、あまり考慮されない要素だが、倉庫が空間の有効活用のために、事務所・スタジオなどに転用されるケースも多く、仕様の変化に併せた業務として注目を集めている要素だ。
⑤のファシリティマネジメントは、修繕・保守業務を取りまとめ、施設のカルテとなるエンジニアリングレポート作成に基づき、中長期の修繕計画をまとめていく業務。耐震補強などコンプライアンスに遵守した設備に変えたり、「RE・倉庫」して施設の転用を図ることで、施設価値を高める業務も賄う。
LPMはコストカッターとしての役割だけを担うところと捉えられがちだが、「現状の質を守った中でいかにコストを削減していくか」に主眼を置いている。事務所単位から全事業所単位での管理の重要性が増す中で、木村氏は「事業者視点を持った代理人としてLPMの役割は今後、高まってくる」とし「物流資産価値の可視化をサポートする局面も増えてくるだろう」と指摘した。
▼LPMはロジスティクス企業の有力な後方支援
木村氏の講演を受けて、座長である鈴木邦成氏は「ロジスティクスを提案するロジスティクス企業にも施設など、見えていないところが多いのではないか。ロジスティクスにもコスト可視化を図る後方支援は必要。施設の見える化を図るLPMを物流業者が活用していくのは1つの手」と述べた。一方で、物流業者側は「これだけ有用なLPMも、コスト的な支出を嫌い、二の足を踏む可能性もある」と懸念を示した。
(「ロジスティクス企業も後方支援を考えるとき」と鈴木氏(右))
これについて木村氏は「これだけ多岐に渡る業務を自社で一元的に管理することは難しいし、できたとしても本業以外の負担がかなり大きくなってしまう。コスト的にいってもLPMには定額払いのほかに、下げたコストの中で対価をいただく出来高払いなど、いくつかのパターンを用意しているので、メリットは容易に享受できる」と回答。「何よりも、従来のどんぶり勘定の中で不透明だった施設管理が一元管理のもと見える化され、問題箇所がわかり、目的に沿った形で施設修繕を図り、安価にしかも質の良い形で運営できることは大きなメリットではないか」と述べた。