自治体からの救援物資輸送依頼▼「無償」か「言い値」か 
2011年05月18日【物流ウィークリーhttp://www.weekly-net.co.jp/】
「他人の意志」を受けて仕事に就くのであっても、断りもできなければ運賃ももらえません。いつ仕事が与えられるのかも分かりません──。奴隷時代の不条理のようだが、「社団法人○○トラック協会」の名があるばかりに、そのような仕事が協会支部に集まっている。その一方で、「他人の意志」という状況は同じだが、運賃はしっかりと請求できるという状況も同時にある。
東日本大震災の被災地に救援物資を届けるため、被災地以外の自治体などから地元のト協に物資輸送の依頼が寄せられている。冒頭の状況はその一幕だ。「交渉もしたが、担当者は『エッ』という感じだった」と、兵ト協東部支部の原岡謙一支部長は話す。
4月中旬、宮城県気仙沼市に救援物資を届けて欲しいと、地元の尼崎市から東部支部に要請があった。当然、東部支部そのものにトラックはなく、会員会社にトラックを出してくれるよう支部から再度委託する必要があった。
輸送を引き受けてくれる会社も見つかったが、原岡支部長によると、市の担当者の運賃なしの認識は変わる様子がない。同支部長は「要請を受けた次の日の出発という予定もあり、一度受けた以上、協会として断れない。輸送力を提供するのが我々の使命ということも当然だし」と運賃交渉を途中であきらめた。そして、運行会社には支部から運賃を払うことを、後日の役員会で承認を得た。
同じような状況は同ト協但馬支部でもあったという。田村哲雄支部長は兵ト協の会議のなかで、「救援物資の依頼があった地元の町が(後で)運賃を値切ってきた」と述べた。
あるトラック事業者は本紙取材に対し、「株式会社と違いト協は社団法人という呼称があるから、無償のボランティアでも受けてくれるだろうという感覚に陥るのではないか。要請があって社団法人が断るわけにもいかず、今回のようなことが起きるのでは」と分析している。
兵ト協本部は救援物資輸送に関してすでに、兵庫県と契約がある。実際に運行したトラック事業者と県との関係について、太田啓三専務理事は会議のなかで次のように話している。「運賃料金は運行した事業者が、それぞれ県に請求する。協会はジョイントであり、どこまで介入するか。県からは、協会がまとめて欲しいという要望もある」。
また、同氏は「国サイド(の救援物資輸送)には、かなりいい運賃が出る予算が組まれていると聞く。県との関係では、もし『高い』と県から疑問の声が出て、法外な運賃額ならば仲介の立場から『これで間違いない』と事業者にいう程度」などとした。
ある事業者はこれらの点に関して、「協会本部からの物資輸送なら運賃が出るばかりか、言い値に近い状態で、支部からのものであれば運賃が出ないかもしれないなんて。同じ社団法人の看板を掲げているのに、紛らわしいことは避けるべき」と警鐘を鳴らしている。
2011年5月12日