東京倉庫協会 岩見辰彦専務理事 − キーマンに聞く 第9回 
「キーマンに聞く」第9回目は東京倉庫協会の岩見辰彦専務理事。規制緩和、物流不動産施設の台頭、3PL業務の浸透など、物流環境がここ数年の間で大き く変化し、倉庫のあり方が様変わりしているなか、現状をいかに捉え、協会として、どう対応していこうと考えているのか、お話を伺いました。
<写真・岩見辰彦専務理事>
―まず東京倉庫協会の現在の加盟企業と、活動状況についてお聞かせください。
東京倉庫協会は昭和22年に設立し、昨年60周年を迎えました。東京に営業倉庫を持つ企業、また本社が東京にあって営業倉庫が他府県にある企業で 構成され、現在の加盟企業は237社。これは営業倉庫の許認可を持つ企業の5割強(所管面積では営業倉庫全体の8割にあたる300万㎡)にあたります。
都内の倉庫団体ではもう1つ、全国倉庫事業協同組合があり、これを含めれば7割の企業が何らかの組織に所属していることになるのですが、いずれにしろ会員増強のためのPRをしていかなければならないと考えています。
行事としては毎年春、秋2回に新入社員研修を実施するなど新人教育に力を入れる一方、中小企業の退職金、倉庫管理主任者、貿易講座入門編など、経 営者・管理職などに対する実務的な研修会をこまめに実施。ほかにも海外研修(毎年20~30人規模で行い、昨年は中国東北部で実施)、日韓物流研究、物流 見学会などの実施や会員従業員の賃金調査・保管荷役合理化のための調査研究、物流環境の変化に対応していくための調査研究、内外PR活動も積極的に行って いるところです。
―倉庫業は近年、規制緩和の動き、物流環境の変化、物流不動産ビジネスの活発化に伴い、大きく変化しているように思います。現在の倉庫業について、どう捉えていますか。また現状抱えている課題にはどのようなものがありますか。
まず指摘しておかなければならないのは、現状では倉庫全体の実態を把握するのは極めて困難な状況にあるということです。
普通倉庫、港湾倉庫、冷凍倉庫、配送業者が運営する倉庫と、それぞれの倉庫ごとに、行政の管轄部署が異なる上、さらに行政の管轄外となる自家倉庫や従来の寄託倉庫とは異なる賃貸倉庫などについては、正確な数がつかめていません。
当協会の会員企業は、分類的に普通倉庫にあたりますが、普通倉庫だけをみると、施設面積には大きな変動がみられません。しかし、昨今の物流不動産型施設の台頭をみてもわかる通り、実際には大きく増えています。
(2001年の倉庫業法改正以降も業界全体の変貌がめまぐるしく進んだ状況下で)実態にそぐわない側面もでているように見受けられます。
業務的にいっても近年は、従来の単純保管型ビジネスから、(輸送業者からの保管ビジネス進出も含め)輸送・サービスを含めた総合物流業へと転換が 図られているなかで、旧来からある「倉庫」の定義のままでいいのか。物流業務全体を串刺しにできるような、実態に即した定義の拡大が必要なのではないか、 と考えています。
変化に対応した取り組みが必要である一方、従来からある倉庫ノウハウの伝授をどう進めていくかも問われています。
たとえば倉庫保管荷役料の計算方法としては、従価・従量率が用いられ、過去には合理的な手法だったわけです。甲乙丙地の区分こそなくなりましたが、40品目の区分は残り、従来からの計算方法を使用しているケースはいまだある状況です。
若い人には知られなくなってきていますが、物流環境変化により、いまのマーケット状況にそぐわないとして採用しないにしても、やはり基本を知った上で対応しなければ、ビジネスをやる上で大きな支障を被る場合がでてきます。
ここであげた倉庫保管料のケースは一例で、最近の物流不動産の活用においてもそれはいえるとみています。
―規制緩和の動きに併せた形で、外資をはじめとする物流不動産企業による施設建設が相次いでいますが、この影響については、どうみますか?
倉庫は従来、長期賃貸契約を前提に保有するものでした。それが規制緩和と、利回りを活用した物流不動産施設の建設が相次いだことで、賃貸倉庫の活 用が注目を集めるようになったわけです。ただこうした賃貸倉庫型のビジネスというのは、昔からまったくなかったわけではありません。以前から再寄託の手法 で用いられており、営業用倉庫を建設した場合でも、空いたスペースを活用し、スペース貸しはなされてきました。
荷主の流動化が進み、2、3年での拠点移動さえでている状況下で、従来型のビジネスに固執し、物流不動産企業による施設建設をただ脅威に考えるの ではなく、ケースに応じて物流不動産施設を自ら建設したり、あるいは利用していく。寄託、賃貸の双方を活用し、収益を向上させることも大切だと考えていま す。
物流不動産については、当協会では3年ほど前から2年に渡り、委員会で取り上げ、その手法を調査・勉強するなど、各会員企業に対し、資産の有効活用の1つの選択肢として提示しています。
―大型の物流不動産型施設の建設が相次いだことで、全国的には玉突き現象なども起こっているわけですが、都内では影響はありますか?
都内では顕著な動きはありませんが、500~1000坪クラスの小規模倉庫では空室を抱え、廃業に踏み切られたケースもみられます。施設動向は周辺環境・道路状況に負うところも大きく、埼玉など周辺県に移転するドーナツ的な玉突きの影響はでていますね。
一方で、羽田空港国際化に伴う周辺区域もそうですが、外環状建設の動きと相まって、今後は八王子市などの東京西南部が注目される可能性があり、当協会では物流拠点整備に関する調査研究を進めているところです。
―さまざまな変化が起こる中、東倉協の加盟企業数の動きはどうなっていますか。
ほぼ横ばいで推移しています。ただその加盟数も新規加盟企業があるなかで達成されているもので、廃業・県外移転による減少分を新規加盟で補っている形となっています。
新規参入組は、運送業者が多いですね。疑似保管の取り締まり強化など、コンプライアンス強化が図られるなか、倉庫業の登録が増えているとともに、流通業務の税制優遇措置に伴って取得を図るケースも目立っています。
―倉庫業では従来から行われてきた手法ですが、倉庫の躯体を利用し、事務所・スタジオ・ショールームといった収益性の高い施設へと転身を図る「Re・倉庫(リ・ソーコ)」事業が注目を集めています。こちらについては、どうみていますか?
都心部ではオフィス化・マンション化が進むなか、倉庫としての活用が適さなくなり、資産の有効活用としてさまざまな施設へと転身を図ってきたケー スは以前よりあります。企業の経営判断に基づき、さまざまな選択肢から最良の判断を行っていくべきことで、当協会としては特別に捉えてはいません。
先ほども述べたように当協会は昨年60周年を迎えたわけですが、加盟企業も設立60年前後の企業が多く占めています。設立60年といえば、戦後間もない時期なわけで、資産の有効活用として、復興物資などの取扱から始めた企業が多いわけです。
資産の有効活用としてビジネスを展開したという意味においては、広義の意味の物流不動産事業を当時から行っていたといえることもできるわけで、環境に併せ、適切な手法を用いるべきなのではないでしょうか。
―最後に東京倉庫協会の今後の目標についてお聞かせください。
「会員の増強」に努めていくこと。そのためには行事をできるだけ魅力的にして、ニーズにあった的確な情報発信を行っていくことが大切だと思っています。
「友好が第一」の考えのもと、友好の輪を拡げ、会員としてのパワーも拡充させていく。それにつれて情報も増やしていく。これが当協会が掲げる従来からの大きな目標です。
長期展望に立てば、少子高齢化への対策も重要です。2050年にはいまより4千万人減少するとみられているなかで、韓国・中国(1人っ子政策が進 む中国でも少子高齢化が進む可能性はありますが)を含めたグローバル物流の推進を図るとともに、パイの細くなる国内物流に、いかに対応していくのか、真剣 に議論していくべきでしょう。
このままの状況が続けば、物流に限らず、経済活動全般が次第に萎んでいくわけで、国としても、外国人の受け入れを含め、人口を増やす努力を図るべきだと思います。
●岩見辰彦専務理事プロフィール
1963年慶応義塾大学経済学部卒業と同時に三井倉庫入社。東京・大阪・福岡・北九州の国内営業所勤務を経て、国際部へ転任。85、86年米国駐在員とし てニューヨーク勤務、帰国後、国内勤務を経て再び国際部勤務。92・93年中国駐在員として1回目の上海勤務。93~99年国際輸送事業部ならびに役員 付、営業部に所属。99~2001年再度の上海勤務を経て、定年退職。以降、東京倉庫協会専務理事へ。日本物流学会会員、日本貿易学会会員。
▼東京倉庫協会
http://www.tosokyo.gr.jp/