物流不動産ニュース

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心を大事にした経営を 

 先日、日本航空の稲盛和夫名誉会長の講演を聞いた。そこで一番感銘を受けたのは、日航再建のポイントは、「財務体質など目に見える部分だけでなく、社員の意識改革や企業文化など目に見えない部分を大事にしたことだ」と強調されていたことだった。稲盛氏が、無償で会長職を引き受け、命をかけて取り組む姿が有形、無形の影響を社員に与えた。「残された人のため」「日本経済再建」「日航は社会にとって不可欠」という大義を社員に示し、社員の物心両面の幸福を追求し、短期間での再上場を実現したリーダーシップに感動した。
 われわれは、ついつい企業の経営状態の物差しとして、財務諸表、経営戦略など目に見えるものに注目しがちだ。しかし、会社を支えているのは、目に見えるものだけではない。経営者の人格、経営理念、企業文化などは目に見えないが、長年収益を挙げ続けている企業こそ、そういったものも大事にしていると思う。
 学生時代、私が経営学を学んでいた時の教科書に「企業の目的は、利益を追求すること」とあった。しかし、私の父である故・池田新一東京倉庫運輸社長はそれを聞いて、「西洋の経営はそうかもしれないが、日本の経営は違う。法人であるから、もっと人格的なものを大事にし、社員の幸せを考えるのが日本の経営だ」と言った。父は、目に見えないものを大事にする人であった。「結果より、プロセスが大事だ」と繰り返した。「人の心は変わり易いものだが、その心を如何に導き、皆を幸せにするか。会社で働くことに誇りを持ってもらうにはどうすればよいか、考えねばならない」と強調していた。
 その父の根本には、進学、就職で大変お世話になった戦前の日本工業界を支えた大川平三郎氏への恩、仏教の師であった本多日生上人の教え、両親への孝行があった。年齢を重ねるごとに、人の心を大事に、世のため人のためにがんばっていた父の経営姿勢は、時間はかかるかもしれないが、経営の正道だと感じている。
 私が長年取り組んでいる物流業は、まさしく心を大事にせねば現場が回らない業界だ。日時を間違えず配送される宅配貨物、破損なく保管、流通加工される商品、安全、環境に配慮した物流関連商品など、人への思いやり、心と心が結びついていなければ成立しない。物にも細やかな心遣いをする日本人だからこその丁寧な物流は、これからもずっと続いていってほしい。私も、人の心を大事にした経営、物流業の大切さを世の中に発信できるよう努力したい。 
 今回で私の雑感は一時中止するが、今後も少しでも皆様のお役に立てればと思っている。

<プロフィール>
 池田光男 1969年5月米国オクラホマ州立大学大学院卒業後、米国での会社勤務を経て、71年11月東運開発専務取締役、87年5月代表取締役に就任。72年4月東京倉庫運輸社長室長、89年6月常務取締役、91年6月取締役副社長などを歴任し、現在、東運開発代表取締役社長。Council of Supply Chain Management Professionals(CSCMP)会員、国際委員などを歴任。