物流不動産ニュース

物流、物流不動産、倉庫を網羅した
最新ニュース・情報を発信しています。

  • メール会員情報変更
  • メールマガジンバックナンバー
  • ニュースメール配信登録

建てたからには100年使います - 153 

建物のメンテナンスについて、日本は他国に比べかなり細かく厳格であるといわれている。保守点検や清掃の技術は非常に高いレベルにあり、機能や美観の維持については世界的に見てもトップクラスといっていいだろう。しかし躯体を含む建物全体を、可能な限り長く使い続けるという点ではどうだろうか。

例えば20世紀はじめに建てられたニューヨークの某超高層ビルには、建築当時の設計図からその後の改修に使われた図面、保守点検や工事などの記録を全て保管している部署があるという。そこには建物に使用されている部材(建材や建具、カーペットや壁紙などの内装材から照明、それらを取り付ける金具にいたるまで)の膨大な量のサンプルも保管されており、管理人が常駐して日々の保守業務に役立てている。これらは建築当初から計画されていたもので、本気で100年使うことを考えて建てられたことがわかる。さらにこのビルの本気度が際立ったのが、数年前に窓ガラスを交換した際のこと。超高層ビルの窓ガラス交換などコストを考えただけで尻込みしたくなるし、日本なら「やらない方がいい」という結論に達しそうだ。しかし某ビルでは作業はごく短期間であっさり終了した。窓ガラスを交換しやすいよう室内からサッシをはずすことができる構造になっていたためで、しかもこの事実は保管されていた設計図から判明したのだという。やるかやらないかわからないような、窓ガラスの交換まで考慮して設計する。文化や社会風土、法律や税制などの違いはあるが、「長いこと使える建物=良い建物」という理念の生きた事例だろう。

日本で定められている建物の耐用年数は、鉄筋コンクリート造のオフィスビルで50年、同じく一般倉庫なら38年。重量鉄骨造の場合はオフィスビルが38年で、一般倉庫だと31年だ。日本でも、一般論としては建物は長く使った方が得とされている。事業用の建物ならイニシャルコストの償却後は収入をほぼそのまま収益化することも可能だし、建て替えには膨大なコストがかかる。また使い続けていくことで地域のランドマークやシンボルとして親しまれもする。さらにいえば、歴史を紡いできた建物を所有すること自体、オーナーの矜持でもある。

しかし日本のオフィスビルでは、この耐用年数を超えてなお現役という建物はそう多くはない。建物の維持管理についてはひじょうに高いレベルにあるにもかかわらず、ニーズの変化に対応できなくなると判断されるケースが多い(税制や新築偏重の賃貸市場などはひとまずおく)からだが、要するに余力(=収益力)があるうちに資金を確保して、建て替えることでニーズの変化に対応させたほうがいい、と考える人が多いということなのだろう。端的にいえば、残念ながら日本の建築技術と維持管理技術をもってしても、ニーズの変化には抗しきれないのである。

日本では、築年数の経過した建物は新築との競合に必ずといっていいほど敗れる。これはオフィスビルに限ったことではなく、倉庫においても同じことがいえる。ならば新築する際に、将来的なニーズの変化に対応できるような構造の建物を建てればいいのだが、まだその意識は浸透しているとは言い難い。長く使い続けることで得られるメリットを最大化でき、かつ新築にも対抗できる市場競争力と機能性をもった建物こそ望ましいが、それを既存の建物で実現するには結局膨大なコストが必要になる。既存の建物既存の建物の延命ももちろん大切だが、無理をしてまで使い続けることはない。逆説的だが、「より長く使える建物に建て替える」という選択も、時にはあっていいのではないだろうか。

(久保純一)2016.07.20