ミツバチ、ビルの屋上で頑張る - 143 
私事で恐縮だが、筆者ははちみつが好きだ。であるから蜜蜂も好きだ。ビル業界向け専門紙の記者をしていたころ、ビルの屋上で蜜蜂を飼ってはちみつを採取する「屋上養蜂」を特集したこともある。
養蜂というと郊外のイメージがあるが、都会は街路樹や植え込み、公園など意外に緑が多い。花をつける草木の割合が高く、むしろ郊外より効率的という見方もあるほどだ。最もうまくいった例だが、銀座の某ビルの屋上にある養蜂場では年間のはちみつ採取量が1トンを超えるという。
いきなり1トンは無理だが、養蜂はやる気と場所と周囲の理解があれば誰でも始めることができる。巣箱は、気温も湿度も穏やかで風通しのいい場所ならどこに置いても良いし、10階くらいまでの高さなら蜜を運んで飛べるので、同意が得られればマンションのベランダでもOKだ。蜜を採る際は防護衣が必要だが、普段は刺激しなければ刺されることもない。周囲の環境にも好影響を与え、前述の銀座のビルでは蜜蜂による受粉で近隣の樹木が実をつけるようになり、さらには地域の人々の協力で街の緑化が行われるようになったという。みつばちがいることで、近隣の人々が環境に目を向けるようになったのである。
多くの好影響が見込める養蜂だが、ビルにとってもう一つ大きなメリットがある。養蜂をやっているビルは、稼働率が高いのである。先日、筆者がよく取材に行っていた横浜市内のビルで屋上養蜂をはじめたという連絡をもらった。竣工から50年近いが内部は様々にリノベーションされており、現在は満室稼働だ。地域活性化のための取り組みも盛んで、話題に上ることも多い。養蜂をやれば稼働率が上がる、ということはないが、養蜂をやっているビルの稼働率が良好なのは事実である。
もっともいいことばかりではない。生きものだから当たり前だが、日々世話をしなければならないし、定期的な採蜜も重労働だ。失敗する可能性もある。はちみつが採れたからといって、儲けがでるわけでもない。好きでなければできないし、やる意味を見いだせないと続けられないだろう。そういう筆者もいつか自分でやってみたいと思うものの、なかなか果たせずにいる。
ここまで読んだあなたは、きっと養蜂に興味がおありのはず。そこで提案なのだが、どなたか倉庫の屋上で養蜂を始めていただけると個人的にはひじょうに嬉しいのだが、いかがだろうか。倉庫の広大な屋上で蜂を飼ったらきっと壮観だろうと思うのだが。
(久保純一)2016.04.20