「地主で悪かったな」 - 154 
不動産オーナーの会合に出席した。集まったのは不動産賃貸を主業とする若手の経営者たちで、規模の差はあるが、出席者のほとんどが親や祖父母などから引き継いだ土地で不動産賃貸業を営んでいる。いずれも先祖が残してくれた土地だ。苦労や他人のやっかみもあるが、それでも残してくれたことはとてもありがたいという。よくありがちな、「もう少し立地が良かったら」「もう少し広かったら」などという話も全くと言っていいほどでてこない。
賃貸業が成り立つような良い物件を受け継いだからやっていけるのだ、という見方も成り立たなくはない。しかし全員が良い立地で、広い土地を持っているわけではない。持て余してもおかしくないような物件でも、みんな何らかの方法で収益をあげている。これは近隣の賃貸市場と自身が保有する物件の状況をしっかり把握し、それに対応できているからこそ。高度な専門知識とノウハウを駆使しているからこそ収益はあがるのだ。
だから、不動産オーナーが楽をしていると思われるのはちょっと嫌だというのもよくわかる。中には開き直っている人もいないではない。しかし私の知る限り、努力(本人は努力と思っていないかもしれないが)を惜しむ不動産オーナーはいないと断言していい。
土地がある、不動産を持っているからといって工夫もなく漫然と貸しているだけでは収益はあがらない。これはマンションでも、ビルでも、もちろん倉庫や物流施設でも同じことがいえる。オーナー業だって、専門知識もノウハウも必要な立派な専門職なのだ。だからこそ、彼らは必死で勉強し、試行錯誤を繰り返す。受け継いだものとはいえ、生まれながらの不動産オーナーなど実はいないのだ。努力して勉強して、はじめて不動産オーナーになるのである。
現オーナーの多くを占める団塊世代から、世代交代の時期に入りつつある昨今。受け継いだ不動産を「選べない」「押し付けられた」と感じるか、「可能性の塊」「チャンス」と感じるか。その差は大きい。オーナー予備軍のみなさん。不動産をもっているだけで楽をしているなどと思われるのは癪じゃあないですか。まずは前向きに、やるべきことをしっかりやって、そのうえで「地主で悪かったな」と言ってやりましょう。
(久保純一)2016.08.05