大きけりゃいいってもんじゃない - 155 
倉庫や物流施設を選ぶ際、立地や用途とともに重要なのが「規模」。大規模高機能型物流施設の興隆により、「売れる倉庫」と言えば大型・大規模という意識が定着してきているようだ。だが全体で見れば稼働中の倉庫のほとんどは500㎡以下。まだまだ中規模以下の倉庫が主流なのだ。
確かに大規模施設は効率の面で多くのメリットがあり、賃貸であれば建てる側も貸す側も、もちろん使用する側もその恩恵を享受できる。新築倉庫の棟数が年々減少している一方で1棟あたりの面積が年々増大しているのは、その効率性と収益性が認知されているからに他ならない。しかしその大規模高機能型物流施設も、広大なフロアがそのまま使われている例は多くはない。マルチテナント型であれば、1企業あたりの占有面積はせいぜい数百㎡と、従来の中規模倉庫と大きな変わりはない。大規模高機能型物流施設も、実態は中小規模施設の集積。大規模なフロアを必要とする物流企業など、そうは無いのだ。
一方、オフィスを主体とした一般的なビルにおいてもこの傾向が目立ち始めている。毎年数万㎡もの新規供給が続くなか、これを埋めるテナントを探すのは簡単ではない。新築はともかく、築年数を重ねた大型ビルではフロアを小割り化して中小企業の入居にも対応しはじめている。広大なオフィスに入居できる大企業は数が限られている。そこで数の多い中小企業にターゲットを変えて訴求しはじめたのだ。
これに大きな影響を受けたのが、既存の中小規模のビル。設備でかなわず、立地でかなわず、ファシリティでかなわない。優位を保っていた賃料も、最近は大きな差がなくなってきている。要は物流倉庫と同じ構図なのだが、賃貸ビル業界ではここに面白い動きがでてきている。小さくても大規模ビルに匹敵する機能やファシリティを備えたビルが相次いで建てられているのだ。
典型的な例では、1階はロビーにしてテナントは入れず、狭さを感じさせないつくりにしてエレベーターも2基以上を設置。1フロア1社として入居者にも“所有感”を感じさせ、内外装の意匠にもこだわってプレミアムな雰囲気を演出する。共用部や水回りにも気を配り、空調や照明にもランクの高いものを用いる。こうしたビルは入居者の執務環境向上はもちろん、来館者の印象もアップするとして人気が高い。オフィスビルの入居者として最も層の厚い中小企業に的を絞った施策で、その成功は当然といえば当然なのだ。
これをそのまま倉庫に当てはめるわけにはいかないだろうが、それでも中小倉庫のメーンターゲットも中小企業である以上、考え方としてはあり得る気がする。それとも大規模高機能型物流施設と同等以上の機能とファシリティを備えた中小倉庫は、やっぱり非効率だろうか。
(久保純一)2016.08.20