物流業は勝ち組? - 165 
物流業界の人手不足が深刻化するなか、その解決策として期待されているのが自動化だ。トラックの自動運転や庫内作業ロボット、自動搬送車などの普及が急がれるが、いずれも最大の目的は人手不足の解消。効率性や安全性の向上も開発の主眼ではあるが、目的としては従的なものだ。ドローンを使った配送網の構築も同様で、今のところ速達性より人的コストの削減が重視されているようだ。庫内作業ロボットや自動搬送車はすでに一部で実用化されており、自動車の自動運転も2020年を目途に運行されるという。いずれは製造から消費者の手にわたるまで全く人の手を介さない、いわゆる無人物流の実現も可能だろう。そうなった時、物流業界はどうなっているのだろうか。
例えば運送業。厚生労働省の調べによると平成26年時点のトラックドライバーの平均年齢は46.2歳で、全産業平均の42.0歳を4歳以上も上回っている。しかも35歳以下が他職種に比べ極端に少なく、現在のボリュームゾーンである40~50歳代が引退する10年後以降は今よりもさらに深刻かつ急激な人手不足に陥るといわれている。ここ数年来、若者や女性に向けた魅力発信や外国人労働者の受け入れ議論など様々な対策が講じられようとしているが、どうも自動化以外の根本的解決策はなさそうに思える。いずれにせよ、ドライバーや庫内作業スタッフ、フォークリフトのオペレーターなど、現場職の多くがやがては消えることになるのだろう。
しかし物流業が消えることがないのもまた確かなことだ。人類が生存し、物資を必要とし、現在と同等以上の社会生活を営んでいる以上は絶対に物流はなくならない。ただ輸送手段やルートが、今とは異なるものに変わるだけだ。これは10年~20年後、現在の職業の半分が消える可能性があるといわれるなかにあっては幸運なことといっていい。自動化の進み具合も他の業種のような効率性・確実性優先ではなく、あくまで人手不足解消の手段という側面が大きい。インフラの整備も含め、自動システムへの移行も他の業種に比べてゆるやかに行われるだろう。物流はいわば勝ち組なのである。
だからといって喜んでばかりもいられない。トラックドライバーを含め物流業には約170万人が従事している。物流の自動化が完成したとき、必要とされるのはいったい何万人だろうか。これは何も物流業に限ったことではない。今でこそ多くの業界で人手不足が叫ばれているが、仕事の半分が機械やAIに取って代わられようとしているのだ。経営者はまだいいが、雇用される対場からしてみれば不安しか感じない。
人はやがて労働から解放され、芸術的な作業にのみ従事するようになるなどという楽観的な未来像を語る人もいる。それもありかもしれない。しかし人間が生きていくうえで大切なのは、昨日までの「できない」を「できる」に変えることだろう。そうすることによって、人間は発展してきたのだ。そのプロセスまでも機械に渡してしまったら、もはや人間自身の発展はないのではないだろうか。いま物流をやる意味。いまその職業に就く意味、いまその仕事をやる意味を、もう一度考え直してみるべきなのかもしれない。どうも職業人として残れるか否かは、そこにヒントがありそうな気がする。
いくら物流業が残るからといって、いまそこに働いている人がすべて生き残れるとは限らないのだ。
(久保純一)2016.12.05