「自動運転で不動産が変わる」は本当か 
昨年ごろからだろうか。自動車の自動運転技術開発がすすむことで影響を及ぼしそうな分野に、不動産が挙げられはじめたのは。物流ではドライバー不足解決の決定打とされるだけあり、さまざまな研究とともに具体的な予測も立てられている。一方不動産については、なんだか影響がありそうだけれどよくわからないというのが現状ではないだろうか。
語弊を恐れずに言えば、不動産価格というのは立地で決まる。環境がよく便利な立地、人が集まる立地が高価格で取引されるのは言うまでもない。交通アクセスを重視する物流立地も同様だ。
これが自動運転の自動車が普及するとどうなるか。まず人件費が不要となったタクシーの乗車料金が下がって普段の足になり、駅からの距離が関係なくなる。個人所有の車も激減し、駐車場が不要になる。車で通りにくい道という概念がなくなり、幹線道路からのアクセスが問題ではなくなる。おおまかだが、不動産プレイヤーの間では以上のような予測が立てられているようだ。「自動運転で交通アクセスがクリアできれば、これまで見向きもされなかった土地が売れるかもしれない」。そんな考えを持つ人も、あるいはいるかもしれない。
確かに、自動車を主な移動手段とせざるを得ない立地が価値を上げるということはあり得る。しかし、である。自動運転が普及したところで鉄道は残る。人が集まる場も残る。働き型改革がすすんでも、おそらく会社も残るだろう。むしろこういった人やモノが集まる場は効率化がすすみ、大型化・集約化がさらに進行しつつある。結局土地とそこに立つ建物に特定の役割が残り、その役割に応じて価値が決まるという構図が変わることはないのだ。当然、自動運転が普及して価値を大きく下げる場合だってあり得る。それどころか立地による格差が増大する可能性も大いにあるのだ。駅前再開発で大型商業施設が誕生した結果、郊外型の中小規模ロードサイド店の存続が危ぶまれるといった例は今日でさえ枚挙にいとまがない。
不動産会社や住宅デベロッパーなどが自動運転技術を持つ企業と組んでまちづくりの研究を行っている理由も、どうやらそこにある。要するに自動運転が実用化されて価値を上げる立地はどこか、価値を上げる土地を手にするにはどうすればいいかの研究である。そういった意味で言えば、「自動運転で不動産が変わる」という言葉は正しいといえる。しかし結局のところ、「良い立地が価値を持つ」という構図が変わることはない。自動運転実用化で「よりよい立地になる」ために、乗り遅れは許されない。自動運転の自動車は、案外速いのだ。
久保純一 2019.02.20