新築物件を活用って・・・ 
新築偏重は、日本の不動産市場の特徴とされる。スペックや立地に関わらず、既築物件と新築物件では新築の方が評価が高い。要するに、新しい方が家賃が高いのである。
確かに、新しい方が建物の機能も耐震性も環境性能も充実している。快適性・居住性についての技術も進んでいるから、不快な思いをする場面もそのぶん減る。建物の性能という面からいえば古いビルより新しいビルの方が優れているのは当然だし、そうでなくてはいけない。しかし欧米などでは、新築物件と既築物件の賃料格差は日本ほど大きくないという。
日本人の新築好きはよく、木造文化という観点から語られることが多い。日本で主流の木造建築は、高温多雨という気候風土や災害の多さも相まって、欧米の石造建築に比べ圧倒的に寿命が短い。欧米において「良い建物」とは幾世代も受け継いでいくことができる建物と同義といっていいが、日本ではそうはいかない。日本の風土では、木造建築を幾世代も維持していくのは容易ではないのだ。手つかずのものを好む伝統的嗜好、あるいは神社が数年おきに新しい建物を造営したりするような、常に新しく清浄なものを好むといった文化も、こうした風土に根差しているのだろう。
このような背景を持つ日本の不動産市場では、新築物件に空きがある今の状況は異例といえるのかもしれない。しかも最近、新築物件を本来の使途とは異なる目的に使用している事例が目に付くようになってきた。新築住宅を民泊に、新築ビルの一部をカンファレンスやコワーキングにといった事例がその代表といっていいが、特に目立つのが新築マンションだ。
その代表例が、新築マンションを一棟まるごと民泊として運用するスキーム。住民の入居前にオーナーからまるごと借り上げ、必要な設備を整えた宿泊施設として収益化するものだ。オーナーはリーシングに苦労することなく賃料収入が得られ、民泊運営者は新しく綺麗で設備の整った民泊を運営できる。しかも自己所有に比べ、イニシャルコストは圧倒的に低い。最近では、民泊としての使用を前提とした新築物件も散見されるようになってきた。
こうしたスキームは、いずれも民泊としてのニーズに変化があればすぐに賃貸住宅や分譲住宅に転換させることを前提としている。民泊を含めた宿泊施設のニーズはさらに増えるといわれているが、そのころ住宅ニーズはどうなっているのだろうか。
柔軟な不動産経営の一環と見れば、納得はできる。しかしこの日本の不動産市場において新築物件を「活用」しなければならないとは。住宅の受給のひずみが見え隠れしている気がするのは、筆者だけだろうか。
久保純一 2019.5.20