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延 嘉隆の物流砲弾<15>物流業界の“顔役”に告ぐ ~軒並み“いい人”な“顔役”が業界変革へのボトルネック~ 

今年最後の寄稿は、“人”にフォーカスしたい。“人”といっても、第6回目の連載「<6> “現場で働く人”が採用できない理由」で述べた“現場の人”では無く、物流会社などで働く「正社員」について思うところを述べてみたい。


物流が好き!は、“勝ち組”の視野狭窄&思考停止!?


物流業界を眺めていると、しばしば、「物流の仕事が好き」といった声を耳にすることがある。そのような声は、業界の顔役を自認する人、あるいは、積極的に集まりに参加するような方に多いと感じる。好きだから・・・というのは、何事においても最高峰の動機だ。不肖、筆者とてそうだ。がしかし、今回は、「それでいいのか?」という点についての自論を披露したい。予め、断っておくが、本文には、読んだ後にスカっとするような清涼感は無い。

「物流が好き」と言って憚らない業界人の多くは、物流業界の平均的な給料水準、あるいは、全業種の平均的な給料水準を超えている人だ。これが筆者の見立てである。無論、中堅・中小経営者もこれに類する。

ゆえに、その声が本当に業界のマジョリティーの声なのか、あるいは、全ての業種がそうであるように、言わば、“勝ち組”的な立場の人たちに見受けられる、心地よく自分に酔いしれ、都合がいい常套句が“それ”と表現するのは酷だろうか・・・。

筆者は、「物流が好き」というセリフに、どこか、視野狭窄・思考停止な要素を感じ得てならない。

 

平均年収で見た“物流”の仕事は美味しいのか?


余計なお世話かもしれないが、「物流が好き」と言って憚らない方々におかれては、どうか、次のことを考えてみて欲しい。

Q.それは、本当に、業界全体の声だと思いますか?


Q.末端の社員も、本当にそう思っていると感じますか?

正直、筆者はそうは思わない。何故ならば、何かしらの業界の集まりに顔を出すような方はともかく、毎日、業務と向き合っている人たちの報酬が決して高いとは言えないからだ。事実、一般の社員の方から、「物流が好き」というセリフを聞くことはあまり無い。

ここで、幾つかの参考数値を示したい。

2016年4月~2017年3月の1年間に、「マイナビ転職」に掲載された求人の「モデル年収例」を全113業種別に集計した「2017年版 業種別 モデル年収平均ランキング」によると、「海運・鉄道・空輸・陸運が44位で517万円」、「物流・倉庫が79位で469万円」。

2016年9月~2017年8月の1年間に、「DODAエージェントサービス」に登録した約29万人のデータを元に、正社員として就業している20~59歳までのビジネスパーソンの平均年収と生涯賃金を、93業種ごとの総計と男女、年代別にまとめた「平均年収ランキング2017」によると、ランキングの記載はパっと見、解らなかったものの、「陸運/鉄道/海運/航空 389万円/生涯賃金:1億6656万円/男性 411万円・女性 347万円」、「倉庫 376万円/生涯賃金:1億6027万円/男性 385万円・女性 342万円」であった。

ここでは、数値の信ぴょう性・妥当性の議論は避けるが、このいずれも、転職サイト・転職サービスに掲載されていた企業の事例。つまり、ハローワークなどを活用している中小の事例がさほど加味されていないと類推される。オマケに、比較的、給料の高い“海運”なども入っての数字だ。つまり、実際には、もっと平均値は低くなる可能性が高い。ついでにいえば、それなのに、時間拘束は長い・・・。

面白くもない数値を例示し、何が言いたいか・・・といえば、


Q.「物流が好き」と言っているあなたは、この平均年収より高くないですか?


Q.平均的な年収、または、平均以下の年収でも、あなたは同じことが言えますか?


Q.「物流が好きだからこの仕事をやっている!」などと、夜な夜な悦に入って、物流業界で働く人たちの生活感や幸福度が変わると思いますか?

親愛なる物流パーソン各位におかれては、「物流が好き」と現実から目を背ける前に、私たちの業界には、まだまだ、十分とはいえない給料水準の人、日々の生活が侭ならない人たちがいる・・・という現実があることを、どうか直視して想像して欲しい。そして、その課題解決のために、業界全体としてどうすべきなのかを本気で考え、経営者・経営幹部の方は、より高い売上や利益を追求し、社員により多く還元する経営努力を続けて欲しい。

日々、セミナーに現場見学会、研究会に視察旅行に勤しむことは悪いことでは無い。いかなることであれ、学びは重要だ。しかし、“意識高い系”の人たちの視座が、単なる“やってる感”、“自己満足”に甘んじていると指弾せざるを得ないのは残念だ。端的にいえば、学んだ結果のアウトプットがほぼ無い“学び”、SNSに踊る自己満足を見るにつけ、甚だ、残念でならない。

そして、“今どき”のワカモノは、超絶優秀だ。“リア充バカ”が跋扈する業界に、若くて優秀なヤツが来ると思うのか?、一瞥し、嫌煙してるかもしれないという自覚をお持ちになった方がいい。特に、経営者に告ぐ。経営者の仕事は、飽くなき利益を追求し、社員も含めてあらゆる利害関係者にそれを享受していくことだ。その自覚に悖るならば、経営者の立場から身を引くべきだ。

 

“物流が好き”に甘んじてきた“物流業界”は若い人にどう映るのか?


初めに私見を述べたい。批判を顧みずに述べれば、物流業界は若い人から好まれていない。言ってしまえば、好まれる理由が然して無い。無論、例外的な人はいる。

雇用や労働を語る際の月並みな要因を丸無視すれば、筆者は、その原因が、物流業界の長老支配(高齢化の弊害)、風通しの悪さ、イノベーションの無さ、などにあると考えている。その是非はともかくとしても、

・ 物流業界を牽引してきたベテランの方々が尽力した結果の惨状がある

・ 「物流が好きだ」、「物流は人だ」と言い続けてきた結果の今がある

などと言うのは、果たして、“暴論”と言えるだろうか?

同時に、筆者は、物流業界を牽引している皆様に問いたい。

私たちは、これらの現実から、あまりに目を背けていないだろうか?

・ あなた方が、したり顔で“顔役”を気取ることに、意味はあるのだろうか?

・ あなた方を見て、若い人たちが憧れて物流業界に身を投じると思っているのか?

・ 若い人たちが、あなた方みたいに成りたいと思う

・・・と思っているのか?

こと物流業界に身を投じる“若い人”に対する魅力という点においては、人気の無さの責任の一旦は、物流業界の長老・顔役・オピニオンリーダーにある。それらの人たちが、現実を直視することなく、決して、我が身を斬ることの無い“改善”を唱えつつ、真の自己変革を行ってこなかったからこそ、このような業界になった面は否めない。

筆者は、20代を長老支配の永田町で過ごした。今の物流業界の閉塞感、活気の無さは、20世紀後半に垣間見られた永田町の長老支配・派閥政治と極めて似ている。今は亡きボスは、その閉塞感を「国民の溜まりに溜まったマグマは、出口を求めて蠢動していた」と表した。今の業界に溜まったマグマとどこか似ている気がしてならない。

どうか、オピニオンリーダー的な方々におかれては、現状、言わば、井の中の蛙に甘んじず、あなた方が“大好き”と言ってやまない物流業界に「若い人が来たいと思っているのか?」、「若い人から見た時に魅力はあるのか?」といった、もう一段、高い視座で物事を考えて頂き、時に、慇懃自重し、身を引く勇気をお持ちになって頂きたい。

 

物流業界の“顔役”に告ぐ


次代を担う若者たちは、あなた方のようになりたくない」、これが、率直に筆者の思うところだ。しかしながら、物流業界の“顔役”は、軒並みいい人だ。身を斬らない改善ごっこに甘んじ、自己改革は出来ないがいい人だ。人間的にも、敬愛に値する先輩方がとても多い・・・。お世辞抜きにそう思う。

しかし、それこそが問題ではないのか?

これが筆者の問題意識だ。つまり、使えるかどうか、将来に責任を持っているかどうかは兎も角としても、人となりが素晴らしい。それゆえ、変化の胎動、変革の機運が起きにくく、若手からの批判の矛先が向かいにくくなっている。“いい人”であることと、業界の未来を照らすこと、次の一手を講じることとに因果関係は全く無い。

あらゆる社会、業界、組織は、大なり小なり、下克上の機運、上に立つヤツらを引き摺り下ろす機運が芽生え、新陳代謝が起こるからこそイノベーションし続ける。もともと、お客様があって始めて発生するアウトソーシング産業たる物流業ゆえ、体質が“受け身”になりがちなことは致し方ない面がある。さりとて、井の中の蛙的に物流業界を語ったところで、何かが具体的に変わること、今日より素晴らしい明日が訪れることは有り得ない。

“顔役”の方におかれては、あなた方が牽引し、愛してやまない物流業界の未来のために、“身を引く”という選択肢があること、ある一面においては、「ベテランという“弊害”」が些少なりともあることを身に刻んで頂きたい。

若い力が台頭しない業界に未来は無い。

このことを指摘して、今年の結びの言葉としたい。

●延嘉隆氏プロフィール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
株式会社ロジラテジー代表取締役。
物流企業経営の視点で、財務戦略(事業承継・M&A・企業再生)・マーケティング戦略を融合し、物流企業の価値を上げる物流コンサルティングファームとして評価が高い。
物流企業を中心に、事業承継・相続、物流子会社の売却など、“ロジスティクス”、“卸”、“小売”などの財務課題で、卓越した経験を有する一方で、物流現場に作業員として入り、作業スタッフとの対話に勤しむ一面も。延氏の詳しいプロフィールはコチラ。

*本連載に関するお断り