延 嘉隆の物流砲弾<19>物流と政治をもう少し考えてみる 
調子にノって書いた「筆者とロジスティクス三部作」。その尺におさまりが悪かったこと、ズバリ、「政治と物流」について、政党色&政治色ゼロで徒然なく綴ってみたい。あまり、ビジネスシーンであまり考えることの無い「政治と物流」について、へぇ~と思って流し読みして頂ければ幸いである。尚、政治家、官僚の方におかれては、このコラムは、一切、イーソーコと関係無い点を明記しておきたい。
では、早速・・・と、その前に、告知を2件。
最近、皆様からの後押しもあり、10年前に開催していた特に目的の無い月一の交流会を再開した。今のところ、キャッシュオンデリバリー方式で気軽に開催している。正式に問い合わせるまでは無いね・・・的なご相談もお受けしているので、ご関心がある方は、参加資格などをご覧になられて、以下から申し込んで頂きたい。次回は、4月2日(月)を予定している。
◆SCMの会(Smile Chaine Makers)【毎月第1月曜日/18:00~20:00】
もう一点(笑)
春分の日の翌日、3月22日(木)より幕張メッセで開催される「JAPAN DRONE 2018」の初日に参加する。この展示会では、ドローンを物流シーンで活用するために精査すべき論点をまとめた「JUIDA物流ガイドライン」も発表されるので、ご関心をお持ちになられる方は、会場にお越し頂ければ幸いである。10部ほどチケットを持っているので、参加をご希望される方は、当社ホームページの問い合わせフォームから「ドローンチケット希望」とご明記の上、ご送信頂きたい(3/20(火)必着)。
◆日本UAS産業振興協議会(JUIDA)熊田知之事務局長と意見交換
さて本題。
物流業界の声が政治に届いていないっぽい件
「物流業界の声はあまり政治に届いていない」
これが、20代を政治畑で過ごした者としての率直な感想だ。物流業界は、建設に次ぐ労働人口が多い産業であるにも関わらず、その声が、イマイチ、政治に届いている感じがしない。物流パーソンの皆様におかれても、「物流業界の声がバキバキ政治に届いている感じがしない」、「打ち出される物流関連の政策は、いつも最新テクノロジーかトレンドもの、物流業界で働く者としてリアリティーが無い」、あるいは、「政務三役の視察先があまりに表面的過ぎて、役所が解っている感じがしない」というのが、実感ではないだろうか。
筆者なりにその理由を考えると、予算がつけば、ダイレクトにその恩恵を受ける建設業とは異なり、そもそも、何かしらの産業が潤って、その恩恵を受ける事業特性。更には、直接的な補助等があったとしても“美味しい”という類のものではない。あるいは、物流機器導入に対する助成であり、潤うのはだいたい機器メーカーという点に、政治との距離感を遠く感じやすい構造がある。無論、その背景には規制緩和の流れもある。
このような指摘をするのは筆者だけだと思うが、ここ20年はともかく、一昔前は、政治家の後援会長を物流事業者の経営者が務めるケースは多かった。その理由は簡単で、本社が大都市にある大手製造業の工場などを除けば、地方に行けば行くほど、その地域に根ざした最大の企業が物流企業であるからだ。
グローバル展開している企業の工場でもなければ、地方都市の企業規模は小さく、結果的に、複数の顧客を持つことで成り立つ、その地域と他の地域(*得てして大都市)を結ぶ“特積み”を担う企業規模は比較的大きい。そもそも、政治家の後援会長など、余裕がある企業しか出来ないので、“特積み”の経営者が務めていることがあった。
しかし、“特積み”の経営者は、戦国時代風にいえば、その地域を代表する一国一城の主。オマケに、一昔前は、叩き上げのオーナー気質が強い我が強い経営者も多かった。ゆえに、お世辞にも、物流業界として、まとまりがある・・・とはいえないような状況があった。そこら辺に、物流業界の結束の弱さ・・・があったと筆者は見ている。
筆者の推測はさておき、“特積み”の数はザックリ300社弱。面白いことに、衆議院の小選挙区の数と概ね符合する。実運送を手掛ける物流子会社を除けば、その地域の発着荷物の量は、その地域の経済の勢いと相関関係にある。だからこそ、広域に事業展開している物流事業者こそ、政治に口を出していかなければならないのではないか・・・と考える。誰も唱えたことはないと思うが、筆者は、どこかとどこかを結ぶ物流事業者は、もっと、地域だとか、社会だとか、そういった視点でモノを考え、発言していかなければならないのではないか・・・と筆者は思う。
打ち出される政策が物流パーソンの腹に落ちない件
次に、多くの物流パーソンが口を揃える、最先端テクノロジー系の政策などについての「とはいってもね♪(*その恩恵を享受するのはピラミッドの頂点だけ・・・)」という点を考えてみる。
予め断るが、この指摘の大前提として、自動運転やロボット化など、最先端のテクノロジーの出現にともなう未来を論じる国交省の方向性は正しい。同時に、各業界団体からの意見を集約した結果の法改正等を否定するつもりは無い。現実解ってないな・・・と感じる点は多々あれど、それが行政。打ち出す施策そのものを否定する理由は基本的に無い。
同時に、法改正等の論拠となるエビデンス(*実態把握のための統計データやアンケートの取り方等)について、設問の設定や内容、あるいは、視察先どうよ?(=センス無いね)と思うことはあるが、一応、手法論としてクリアしているのだろうから、間違いとは言えないのだろう。
しかし、腹落ちしない業界関係者のほうが圧倒的に多い・・・という点は否めない。つまり、打ち出された政策の効果が及ぶ物流業界・物流現場で「ありがとう!」と賛美する人も少ない。この見方に異論を挟む物流パーソンは少ない。誰も、お上に意見しないだけで、本音ではみんなそう思っている。あるいは、物流政策に関心そのものが無い。
端的にいえば、(1)課題と解決策が噛み合っていない、(2)影響を及ぼす範囲が極めて限定的(=自ずと、効果も限定的)、(3)目線が高い(=極めて一部のトップ企業、あるいは、世間&実態知らずの学者と似たような目線)。ゆえに、どうしても、浮ついた、地に足がついていない政策が多いと感じる。
見方を変えれば、「誰のための物流関連政策なのか?」、「どこに軸足を置いて政策を考えているのか?」、「どこで、誰と話した結果、こうなった?」など、とても不可解に感じる点が多い。言ってしまえば、現場感やリアリティーが全く無い。
縦割り行政の狭間に、スッポリ、ハマったっぽい件
ここ数年来の物流業界最大の問題は“人”。その全ては、“足りない”という言葉が続く。詳細は述べるまでもない。物流業界では、働き方改革以前に、労働時間の問題、更には、(感覚値で)関東圏の物流現場の過半数は「社保って何?」的なコンプライアンス意識の低さなど、こと労働に関する問題は枚挙に暇が無い。無論、キチンと頑張っている会社もある。
まぁ~、課題は非常に多いのだが、それらの問題に対して、自動運転、連結ダブルトラック、ロボット化にAIなど、将来的な方向性は否定しないが、それじゃあ目先の問題は一向に改善しない。見栄えがいい打ち上げ花火が多過ぎる。これは、いかに、監督官庁が実態を捉えていないか・・・の証左でもある。世間知らず、所詮他人事、上から目線、表現は何でもいいのだが、実態と解決策の乖離がハンパ無い。
監督官庁が打ち出す“未来”の整合性を取るための政務三役の視察・・・。視察先を見るだけで、業界の未来を劇的に変えることなど有り得ないことは明らかだ。など書くと、優秀なお役人様からお叱りを受けるのでこの辺にしておくが、文句がある官僚の方は、是非、ご連絡頂きたい。筆者が物流業界の真実を垣間見られる視察先をアレンジして差し上げたい。
同時に、縦割り行政の弊害などとディスるつもりはないので、もっと、厚生労働省と連携を取って欲しいと心底思う。「人が問題だ!」と言っているのに、全てをテクノロジーで解決しようとする様は、エンジニアが陥る“愚”と丸っきり同じだ。そのような監督官庁の優秀な方々には、“脚下照顧”という言葉を贈りたい。同時に、今一度、労働集約産業たる物流業の足もとを見つめ直して頂きたい。この意見に反論があるなら、“省人化”で括れるソリューション導入に須らく補助金・助成金をつけろ・・・あるいは全額負担しろ!的な方向性を打ださねば、辻褄は合わない筈だ。
「最新情報&現場感はセミナーでお勉強は」勘弁して欲しい件
以下は、甚だ、余談だが、縦割り行政議論・・・はさておいても、現実的課題とその解決策の乖離が著しい理由を考えてみた。
いつ頃からだろうか? ソリューションベンダーが開催する物流関連のセミナーで、国交省の役人の姿を見かけるようになった。ビジネスパーソンでもないのに、実に、真剣な眼差しで聞き入り、メモを取っている。その点は、素直に、敬意を表したい。
しかしながら、そもそも、物流関連のソリューションセミナーなど、開催する側が自社の商品やサービスを販売するための営業プロセスの一貫(=大本営発表)として開催しているもの。ゆえに、その論理展開や例示される事例、更には、その根拠となる事実やデータ等の前提条件など、都合よく“設定”されている場合もあるし、それらの情報が詳らかに開示されることはまず無い。
それ以前に、些少なりとも、現場感を持っている筆者が「えっーーー!」と思うこと、あるいは、「コイツ(この講師)解ってないな・・・」と思うことの方が多く、その情報収集に励む姿に一抹の不安を感じざるを得ない。同時に、だからか・・・と、昨今の物流関連政策の現場感の無さに妙な納得感すらある。
官僚が抑えておくべきことがあるとすれば、
・ 物流ソリューションセミナーは、どこかの誰かの“都合のいい”セールスの場・ 語られる内容を真実と受けとめるのは危険。実態の的確な理解を見誤る第一歩
・ 売り込む商品やサービスに拠って、対象となる営業ターゲットは意外と異なる・ 単価が高ければ高いほど大企業向け(業界ピラミッドの頂点向け)の内容
・ ソリューションとして出来ることと、(特に受託事業者が)投資し、その投資コストを回収出来ることとはイコールではない
・ 事業者の立場でいえば、受託する業務で投資回収出来るに足る契約期間がある方が少なく、各種ソリューションの設備投資に踏み込みづらい
・ 投資と回収の視点が無さ過ぎるため、テクノロジー系普及の裾野が広がらない・ というか、それ以前の課題を抱える事業者が大半であり、それどころではない
・ 環境や省人化などを大義名分にした物流機器類の補助の立て付けは、時流や、見せ方の必要性に鑑み理解できるが、少し、“実効性”の点を考慮して欲しい
・ 物流関連の業界団体のなかには、ソリューションベンダーの隠れ蓑、実質的な営業の場的なものもある
・その手の団体からの要望をまともに受けとめるべきか・・・?は、甚だ、疑問
・ アカデミック系・・・でリアリティーを持った学者がいたら逆に教えて欲しい
といったところだ。これらの点を履き違えて政策立案すると、変なことに多分なる。より的確にいえば、ソリューションベンダーの太鼓持ち的な政策の嵐となる。と、1ミリも事業者が無関心なことを書き連ねてしまった。
まぁ~、色々と書き連ねたが、かかる様を垣間見るに、「マジか・・・」と、こっちが不安になるので、もっとちゃんとして欲しい。頼む・・・。
●延嘉隆氏プロフィール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
株式会社ロジラテジー代表取締役。
物流企業経営の視点で、財務戦略(事業承継・M&A・企業再生)・マーケティング戦略を融合し、物流企業の価値を上げる物流コンサルティングファームとして評価が高い。
物流企業を中心に、事業承継・相続、物流子会社の売却など、“ロジスティクス”、“卸”、“小売”などの財務課題で、卓越した経験を有する一方で、物流現場に作業員として入り、作業スタッフとの対話に勤しむ一面も。延氏の詳しいプロフィールはコチラ。