<レポート>第3回「物流施設共同化研究会」(前編) 国土交通省が物流の現状・課題を報告 
イーカーゴならびにイーソーコは7月31日、東京・港区のイーソーコ・セミナールームにおいて、第3回「物流施設共同化研究会」を開催しました。同研究会は2016年12月、両社が幹事となり、都心部の中小倉庫企業を中心メンバーに発足。大規模マルチ対応型倉庫の共同開発等をテーマに、過去2回の研究会で検討を重ねてきました。
今回は国土交通省物流政策課の神澤直子推進官、中村謙太郎専門官、真田修一課長補佐の3名を招いたこともあり、過去最高の52名が駆けつけ、立ち見も出るほどの活気あふれる会となりました。
冒頭、イーカーゴの鈴木清社長が「イーカーゴは、秋元運輸倉庫とイーソーコが設立した合弁会社で、物流業界における人材育成を事業の柱としています。昨年暮れのヤマトショックは、業界では天変地異のような出来事でしたが、一般の方に『物流』という言葉がフォーカスされ、絶好のチャンスだと考えています。本日の研究会では、皆様と何かしらのひらめきを共有したい」とあいさつ。
○第1部講演「我が国の物流政策について」
第1部は、国土交通省物流政策課物流産業室の神澤直子流通業務総合効率化事業推進官が基調講演「我が国の物流政策について」とした演題で、(1)物流を取り巻く現状、(2)物流生産性革命、(3)物流総合施策大綱、(4)物流不動産、の4本柱を発表しました。
神澤審議官は冒頭、「物流の危機が叫ばれているまさに今が転換期」と述べ、物流に関する現状と国の政策を解説しました。
物流業界は約26兆円を占める一大産業で、就業人数は約250万人。全産業就業者数(6440万人)の約4%を占めています。物流分野の労働力不足が近年顕在化している中、全日本トラック協会が2016年に実施したドライバーに関する調査では58%の企業が「不足」または「やや不足」と回答しましたが、神澤推進官は庫内作業員の人材不足にも言及、特に近年は冷蔵倉庫で従事する作業員不足が顕著になっています。
トラックドライバーの拘束時間は原則1日13時間です。物流センターや倉庫などへの到着後の荷待ち時間による拘束が大きな足かせとなり、1運行あたり2時間超の荷待ち時間が発生するケースが3割弱を占め、中には荷待ち時間が6時間を超える事例も。荷待ち時間は対策が急がれます。
ネット通販市場の拡大に伴い、宅配便の不在再配達は全体の約2割に達し、再配達回数の低減は社会問題となりました。「そもそも宅配便は地方の親から都会に出ている子供にモノを手渡しで送るためのサービスでしたが、最近はスマホで購入した商品を、自宅に届けてもらう形態に変化しています。発荷主と着荷主が同一人物となるこの時代に、手渡しで配達するサービスが適当なのか、サービスの持続可能性はあるのか、真剣に考ええる岐路に立っています」と神澤推進官は指摘します。
国交省では2016年を「生産性革命元年」とし、省を挙げた取り組みを開始。労働者減少を上回る生産性を向上させることで、経済成長の実現を目指しています。目標値は「物流事業の労働生産性を全産業平均並みに引き上げる」こと。2020年までに生産性約2割向上を目標に、共同輸配送、手待ち時間の削減支援、物流を考慮した建築物の設計・運用の促進等に着手。先進技術と連携、利便性も生産性も向上させる手立てとして、オープン型宅配ロッカーの導入促進による宅配便再配達の削減、ドローンによる荷物配送のための環境整備などで国民の暮らしを便利に変える「暮らし向上物流」を神澤推進官は解説しました。
最後に紹介された項目が物流不動産でした。バブル崩壊以降、国内市場の縮小、グローバルな価格競争、経営効率の改善等の経営課題に直面し、その結果多くの荷主は原価低減のため、生産拠点の海外移転や流通経路の見直しを画策するようになりました。減損会計の適用やキャッシュフローを意識した経営等を求める中、物流施設は自社保有から賃借への流れが加速しています。コアビジネスに集中するため、3PL事業者への物流業務委託は定着しています。
在庫の削減・最適化やリードタイムの短縮など、サプライチェーンの最適化を図る観点から、物流施設へのニーズが高度化。保管機能を中心とする保管型倉庫から、在庫を置かないスルー型の物流センターへとシフトしています。そこで求められるのは大規模なフロア面積と多数のバースを備える、高機能かつ大型のメガ倉庫となります。
物流不動産は不動産証券化に伴う制度整備や金融緩和も追い風となり、国内外の投資家は不動産へと裾野が広がり、物流施設を含む投資用不動産への投資額は増大しています。物流施設はテナントの定着率が高く、賃料も安定的なことから投資対象として広く認知され、現在では財閥系大手デベロッパーも本格参入するなどプレーヤーが多様化、安定的な供給体制が確立されるようになりました。
○第2部「流総合効率化法による支援措置」
第2部は総合政策局物流政策課物流産業室の中村謙太郎専門官による物流総合効率化法(物効法)による支援措置が発表されました。2016年10月1日より、改正・物流総合効率化法が施行され、7月末段階の認定件数は12件となります。
改正の変更点は大きく分類すると、2以上の者(法人格が別の者)が連携すること、流通業務の省力化を伴うことの2点。ポイントとなるのは営業倉庫への登録と、竣工までに認定を取得することです。
物効法の普通倉庫の具体的要件定義は、以下9点となります
(1)実施主体:2以上の者(法人格の異なる者)の連携
・・・連携する企業がグループ会社であっても異なる法人格であれば可能
(2)総合化・効率化要件:輸送・保管・荷さばき・流通加工を一体的に実施。輸送網の集約化、モーダルシフト、共同輸配送等の効率化を実施
・・・流通加工の作業が必須
(3)環境負荷低減要件:現行の事業と比較して、CO2排出量削減効果が見込まれること
・・・モーダルシフトなど
(4)省力化要件:現行と比較して、トラックの手待ち時間の削減効果が見込まれること
・・・1荷役あたり、平均30分以下を目標とする(天候不順などの突発的現象は除外)
(5)立地要件:高速自動車国道のIC等、港湾、空港、鉄道貨物駅、工業団地等の周辺5㎞以内に立地
(6)規模要件:平屋床面積3,000㎡以上(多階建は6,000㎡以上)
(7)構造要件:倉庫業法の施設設備基準に適合していること、主要構造部である柱及び梁が鉄骨造、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造であること
(8)設備要件:高規格バース(外壁面の1面に可能な限りの貨物の搬出入場所、貨物搬出入場所から奥行5mの荷さばき用空間)、大型車対応荷さばき・転回場(前面に奥行15m以上の空地)、流通加工用設備、データ交換システム、貨物保管場所 搬出入場所(可能な限りの)管理システム、強制送風式冷蔵装置を有するもの
(9)防災要件:非常用データ保存システムを有するもの
・・・東日本大震災を教訓に追加地震等の際に保管データをバックアップできること、荷主と通信できるような通信機器
旧法では垂直搬送機などのマテリアルハンドリング設備導入が認証条件でしたが「この10年間で庫内が大きく変わりました。旧法では選択できるマテハン機器が限定してあり、自社倉庫には不要だった事例もありました」と中村専門官は指摘。上記は普通倉庫の要件となりますが、冷蔵倉庫、貯蔵槽倉庫では、希望要件が容積 6,000 m3以上に定められています。
物効法を認定された場合、法人税を5年間割増償却10%、固定資産税・都市計画税を5年間、課税標準の半額に減額されます。建物の取得価額10億円(建物評価額7億円/附属設備1000万円)の営業倉庫で 約3400万円の減税を達成した事例を紹介。
「最近は建屋の建築費が高騰しているため、少し上がるのではないか」と中村専門官は予想しています。
中村専門官は「現在、国の財政が厳しさを増すなか、営業倉庫に対してここまでの支援措置は極めて珍しいことです。国が倉庫業を重要な基幹産業であることと認識しています。『ロジスティクスの中心は倉庫である』と耳にしたことがあり、個人的に非常に感銘を受けました。倉庫業の皆様にはぜひご利用いただきたい制度です」と積極的な参加を呼びかけました。
講演終了後、会場内で質疑応答や活発な意見交換が行われました。
その模様は次回、後編でレポートします。