日本再生、成長戦略の可能性 − 第7回 国家戦略会議と物流
物流は産業の黒子であるばかりではない。物流が産業を興す事も可能なのだ。農林水産業における宅配サービスを見よ、製造業における流通加工と組み立て生産を見よ、小売り流通業における据え付け交換サービスを見よ、サービス業界における保守修理再配送を見よ。まさに収穫、営業、顧客サービス、生産工程、異業種サービスを取り込んで、既存産業が事業範囲を広げ、市場を囲い込み、同時に顧客満足を高めて売り上げを拡大して来た。産業の再生や発展に物流の果たして来た役割は大きい。
今、我が国が低迷し停滞し、世界に遅れを取ろうとしている時に、物流が発想を高め、発言を繰り返し、新産業を目指さずして日本の産業再生は叶うはずも無い。その事を繰り返し、重ね重ね、読者に記憶してほしい。
国家戦略会議は従来の基幹産業をすでに無いものとして扱っている。名残として自動車、住宅には減免税と助成を続けているが、再び日本を牽引するほどの力強さが残っているとは見なしていない。だからこそ、一昨年から何度も新成長戦略として6つ、7つのサービス産業を取り上げてきている。製造業の復活も「もの作り再評価」として歌い上げてはいるものの、伝統芸能の域を超えるモノではなく産業のスマイルカーブを取り上げて、ITソリューションとの連携や夢の商品としての日本版アップルを指向させようとしている。
結局日本の得意領域は、軽薄短小と言われた小型化、軽量化、集積化の方向性から抜け出させずにいたのは、産業が業際を越えることができずに自己学習を続けたからではないか。異業種を統合して、作る、売る、消費する、保守するというモノから抜け出せない思考に原因があるのだ。
そこで、サービス産業への転換を進めようとしているのが国家戦略の根底に伺うことができる。所有から利用へ、利用による幸福の追求という価値観、ライフスタイル、ビジネスモデルの転換を図ろうとしていることが明らかになってきている。
そのための国家戦略会議分科会は、
●平和のフロンティア
●叡智のフロンティア
●幸福のフロンティア
●成長のフロンティア という4つの軌道修正を図り始めたのだ。
それぞれが扱うテーマは、地球規模での安全保障、教育と人材創出、経済ではない価値観の模索、そして産業再生のための資金創出である。
さて、どんな産業が日本を救い出すかはまだまだおぼろげではある。ただし言えることは、今まで懸命に今日を生き続けて明日を切り開いてきたが、これからはそうではないということだ。
むやみな懸命さが地球規模では経済紛争や環境破壊を招き、社会体制の革命を必要としていることが明らかなのだ。
世界を牽引してきた先進国は、これからは中国インドの経済成長にシフトせざるを得ないし、国際競争がエネルギー問題や国家間の主権紛争を招いてはならない。
経済の成長だけが国民の幸福につながるというテーゼは否定されなくてはならないし、それに代わる新たな価値観を生み出さねば、経済の停滞が人類の不幸を招くことになりかねない。
日本を見れば人口問題以上に国民所得GNPの低迷は避けられず、労働人口や高齢化による社会保障のコスト増加も避けられない。さりとて、保障と負担をバランスさせようとするなら、増税の理由も納得できる価値観が必要とされるのだ。「経費がかかるから、増税する」という短絡的な考えは通用しないことが明らかなのに、政治パワーは空回りしている。
我が国産業は世界で儲けて日本に還流させるテクニックをどれだけ駆使しても、地球規模ならすでにボーダレスであり、貨幣交換の情報は不均衡を一瞬のうちにバランスさせてしまうだろう。一時の円高、円安はあったとしても、恒久的に我が国だけが成長と繁栄を独り占めすることはできないのだ。
学ぶべき姿は、70年も昔に先人たちが描いた構想。大東亜共栄圏という真にボーダレスな幸福のアジア全域への波及である。侵略ではなく植民地化でもない、文化の融合、人類の幸福への追求なのであろう。
内需産業、外需産業という区分けをなくし、優れた日本産業をアジア全域に普及させてゆく、アジアの成長と日本の一体化なのであろう。
産業振興のために派遣労働者という低所得労働を容認して、あげくの果ての国民貧困率増加なら、幸福は青い鳥のごとくに探し出すことはできない。国家間の賃金格差を理由にした産業移転なら、情報化社会は容赦なく為替操作と紛争を招くだろう。
日本が世界に認められるためにも、アジア全域の共存と共栄を図る産業振興を、地球規模で考えるとき、国際輸送に限らずとも物流の果たす役割は必ず見いだせる。
軽薄短小の得意技を駆使した物流サービスは、中国インドでも期待されるニーズなのだ。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント 花房 陵)