物流マネーのフローとストック flow&stock (第1回)  物流マネー70兆円のゆくえ
経営の点検を行うと槍玉にあがるのが物流コストだ。企業は外部からのキャッシュを受け入れ、内部では投資のほかに経費キャッシュを排出させている。商品在庫や設備投資は売上の原資といい、経費は少ないほど優れた経営なのだ。在庫と投資はマネーストックであり、経費はマネーフローである。この区別がわかにくいが、徐々に明らかにしてゆこう。
元京セラ会長の稲盛和夫は経営の真髄をシンプルに捉えた。
稲盛和夫『実学』<最大の売り上げを最小の経費で>
経費の多い順番に点検が始まる。人件費は企業活動を支える我らなので聖域だ。広告宣伝費は顧客とのコミュニケーションに欠かせない。すると次に目立つのが物流コストであり、モノの保管と移動にかかわるコストだ。経営活動で生産や仕入れをした商品を置いておくのが保管費で、顧客への販売に輸送するのが配送費となり、物流コストは総売上の5%~10%に相当するのが月並みな現状だ。
いまやそのコストは物流業界では25兆円、自社の工場倉庫や営業マンが配送するトラックや自家用車でのコストを合わせると50兆円を越える。日本のGDP500兆円弱なら1割以上が保管と輸送のコストになる。物流業界だけが物流を行っているわけではなく、生産工場や営業活動にも物流は含まれているから、メーカーの販管費や流通の営業経費も物流コストと言える。
支払う側はコストであり、倉庫や運輸業は売上となり活動の原資となる。倉庫やトラックは設備投資の対象となり、膨大な額の設備投資が毎年行われている。投資したものを回収して利益に転換するのは従来型だが、いまや倉庫もトラックも賃貸借物件やリース契約で所有者が別に存在する。つまり、設備投資を肩代わりする物流関連企業も多く存在するのだ。
物流マネーフローは年間60兆とも70兆とも
(完成している物流センターはマネーストックであり、その規模は計測不能の状況にある。我が国の不動産総額も時価では約500兆円あり、多くは工場、商業ビル、オフィス、住宅、国有地に分かれる)。まさに巨大なマネーがうごめいていることになる。
物流業界は運賃として宅急便500円からの小さな売上を積上げている。倉庫の作業員は最低賃金の1000円近くで日々の生活を営んでいる。
建設ラッシュが続く巨大物流センターは不動産投資として数十億円規模の資金が動く。
巨額なマーケットの中には、硬貨をめぐる攻防と巨大資金が混在している。すると、そこにはチャンスが必ず生まれてくる。
低額な料金の確実な回収と精算、巨額な投資資金の効果回収計算、そしてカネを巡る様々なサービスの可能性、まさにビジネスチャンスが見えてくるのだ。
不景気日本の優秀な産業は自動車業界で、その規模は65兆円、関連事業者数550万人ともいわれているが、まさに物流関連産業は自動車産業よりも巨大で多くの事業者が存在しているといえる。
このコスト、売り上げ、設備投資の70兆円を巡って、今後はさまざまな資金サービス、金融サービス、ファイナンステクノロジーの芽が伸びることを予測して本稿をすすめることにする。
<イーソーコ総合研究所 主席コンサルタント 花房陵>