お金を集める天才たち − 第8回 物流不動産のにぎやかな人たち
今もなおゼロ金利政策が続いています。低金利は実際には最終消費者にはなんの還元もされず、アメリカのサブプライムローン地獄のように、低金利時代だけれども、私の借りたお金は高金利の金融で結局破綻したのは象徴的です。
とはいえ企業家にとっての金利動向は非常にセンシティブな意味を持ちます。回収確実な投資案件があるなら、低金利は魅力だけれども、低金利だからといってすべての投資案件が安全である保証はないからです。ですから、低金利が投資の呼び水になっていない現実は、金融政策が経済政策の手段に成り立たなくなったことの証明です。
さて、投資案件がどの程度の確実性を持っているかの判断には、現在価値への割引計算という金融知識が必要です。今日現在の1億円が将来いくらのキャッシュをもたらすかの計算をすることですが、インフレなら貨幣価値が下がりますので、投資+インフレ率+利益率の計算が慎重になります。デフレなら逆に貨幣価値が下がりますので、投資がきちんと回収されればキャッシュを持ったまま何もしないよりも優位であることが分かります。
倉庫開発が3社によるジョイントビジネストして花開いたとき、低金利政策とこの投資判断の科学に再びドライブが掛かったのです。10億円の倉庫開発費用には、どんなに低金利であっても金利リスクがあります。では、10億の別の不動産案件ではどうでしょう。たとえば、商業施設やビル開発、マンションや宅地開発では、投資の意思決定と完成、販売開始までの時間がべらぼうに掛かります。設備は複雑だし、募集や営業に手間が掛かり、さらに賃貸条件を個別にたくさんのテナントと結ばねばなりませんから、思い切り長期の膨大なビジネスプランになります。もちろん、成功の確率も高いでしょう。実質のリターン収益性も確実なのでしょう。ただ、倉庫に比べればめまいがするようなステップの多さと時間が掛かります。
倉庫なら、数件のテナントで十分だし、完成即日渡しもOKのはずです。複雑な工事はテナントサイドの問題ですから、開発側の時間的な手離れと事業の複雑性は一挙に下がります。
さらに、投資主体を全部リスクではなく、当時強化されていた不動産流動性施策の一環としてのSPCなどを利用すれば初期投資額と売却・賃貸収入によるイールドギャップ(実質金利負担と事業収支のバランスがプラスになっている)から、やればヤルほどプラスになりうるビジネスモデルだったのです。
この辺の金融技術や知識が倉庫開発のビジネスモデルをリードしていたおかげで、物流関連事業者はこぞって新倉庫の建設に向かったのです。強かったのは金融知識とお金を集めるビジネスマンが主導だった、というのが振り返るときの成功要素だったのです。こちらの「うまいことやって切り抜けた人」たくさんいます、やはりあえて匿名にしておきましょうね。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント・花房陵)