戦略の実行 − 第9回 物流不動産不況と戦略
戦略という言葉は誰でもが使う公用語のようなものです。でも正確な意味や意図、発言者と視聴者の間には多くの誤解があります。正しい定義は不要ですが、単に「重要なこと」という意味で使うのは危険です。「当社の経営戦略は、顧客に奉仕して、よって社会に貢献する」などと意味も具体性も乏しいスローガンが出回ることと同じです。
企業家は自分の為すべきことを衆知徹底するために理念とビジョンを語り、その延長に経営戦略と行動基準に従った実行を求めます。先輩や親が始めた企業なら、なおさら再確認の意味でも方針と行動規範を示す必要があるのです。「売れるものを作る」「顧客が望むサービスを提供する」などというのは、建前であって戦略でも行動基準でもありません。
そんな風に語ってゆくと戦略とは何か、戦略を実行に移すにはどんな手順と作業が必要なのかと深みにはまります。
企業ごとに異なる戦略が実現できれば、それぞれの企業存続は保証されます。逆に生き残りが危うい企業は、戦略の失敗と顧客を無視した行動を伴っていると言えるでしょう。景気が悪く自分には原因がないのだから、業績が低迷するのは仕方がないと断ずる経営者がいれば、それは失格です。
景気や外部環境に自社を沿わせてゆく、なんとしても自社の存続を図ってゆくために自身を変えてでも経営を推し進めるスタートラインに戦略があり、ゆえに有事の際には、戦略の大転換をしなくてはなりません。
自社と顧客の関係性と存続こそが戦略であり、実行を伴わなければなりません。すると経営戦略にもっとも重要な要素は、顧客や市場を見る目、分析する能力、先見性を確かめる手となり、足となる従業員の行動そのものが大切であることに気づくでしょう。更に各人が見聞した情報、つかんだ感触、うわさや流行の様子を会社組織に吸い上げてゆく現場チームの重要性。そしてボトムアップの情報を素直に聞き、また確かめる経営陣のあり方が大事になります。もちろんトップダウンで特殊な情報の根拠をボトムレベルで検証するという活動も含まれます。
戦略の実行には各人と組織チーム、意思決定の経営陣たちの連携がなくしては何事も進まない、という認識が重要です。
ではわが社の従業員、組織やチームは果たして外部に目と耳を向けているかどうか、とても不安になりますね。職場の話題が顧客の悪口であったり、社内の不平不満であったり、毒にもならないゴシップ、噂話に終始していたのでは戦略決定の貴重な情報が集まることもなく、当然のごとくに分析や意思決定も行えません。
ヨーカ堂会社案内には組織図が載っています。当時からダイエーとは全く逆の図になっていました。上に店舗と顧客、店長が位置していて、次に本社の各部と末端に経営陣が書かれています。上から重要な役割であることを暗示しています。経営者は現場のサポート役に徹している組織図こそ戦略の実行を推進する原動力です。
価格を安くする、会社の規模を拡大する、新しい事業部や組織を立ち上げる、新商品の開発と導入を図る、・・・・・さまざまな「重要なこと」が日々始まっています。戦略の実行が行われていると勘違いするようでは困ります。重要なことが顧客と市場に受け入れられるかの感触が明確となるとき、ボトムアップの情報が検証されたときなのです。
戦略の実行には、組織図の改定と各人の役割の転換が不可欠と言えるでしょう。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント・花房陵)