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TANREN株式会社 佐藤勝彦 代表取締役ー挑戦者に聞く 第3回(前編) 

【対談】教育とは、原石を磨き宝石となすこと

TANREN株式会社代表取締役CEO 佐藤勝彦
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株式会社イーソーコドットコム代表取締役 早﨑幸太郎

 

接客業は、スタッフ個人の資質が成果に直結する特殊な職種といえる。その育成も同様で、臨機応変な対応力は画一的なマニュアルでは身につけることが難しいため、職人芸的なコツを伝授するOJTが大きなウエイトを占める。日本の接客業はそのサービスの質の高さから世界一と称されることも少なくないが、今後もその地位を守り、さらに質を上げるためには効果的なスタッフ育成スキームの確立が課題となるだろう。

TANREN(タンレン)が開発した「ナレッジシェアアプリ」は、こうした接客スタッフ育成のジレンマを解消するために開発されたシステムだ。接客のロールプレイ動画をアップロードすると、事前に設定した評価者が6項目を4段階で評価する。動画の共有や評価結果の共有もでき、接客のロールプレイのみならず現場で起こり得るさまざまな問題の解決にもつながる可能性を持っている。

人材教育を通して物流業界の業態改革に取り組むイーソーコドットコムの代表取締役・早﨑幸太郎が、TANREN代表取締役CEO・佐藤勝彦氏とともに、人材教育の課題と展望を語る。

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【左】佐藤勝彦TANREN株式会社 代表取締役CEO

【右】早﨑幸太郎:株式会社イーソーコドットコム 代表取締役

【撮影場所】co-ba Re-SOHKO

 

 

インセンティブはスタッフの心を荒くする?

 

早﨑:佐藤社長は携帯電話の販売員から起業して「ナレッジシェアアプリ」を開発されましたが、その前は料理人をされていたとか。

佐藤:日本料理店で働いていたのですが、そこでは仕込みの大切さを学ぶことができました。接客でも、お客様にボールを投げる前にやるべきことがあります。考えることは一緒ですし、作業の効率化にもつながります。ただし給料は少なく、まさに「日々鍛錬を繰り返して一人前になっていく」世界です。当時は私自身が鍛錬するのが嫌いで、アルバイト情報誌で探した携帯ショップに入りました。

早﨑:そこで成績を上げられて、指導する立場に。

佐藤:販売をやっていたときは多いときで月80万円くらいのインセンティブがありましたから、正直お金に対する感覚が変わりました。でもそれに見合うスキルが伴っていないのにお金が入ってくるという自覚もあって、このままではいけないな、とも考えていました。

早﨑:物流不動産ビジネスは不動産業界に近く、イーソーコグループでも営業スタッフはインセンティブ制です。ただし一人で成約までできる例は少なく、複数のスタッフがかかわります。最終的に成約に至った場合、一定のルールに基づいて上長が判断するのですが、入ってくる額は決まっており、それをスタッフでどう分けるかが重要になります。それぞれの段階を担当したスタッフの熱量の問題もでてきますし、案件を持ってきたスタッフと物件を持ってきたスタッフとの兼ね合いなどもあります。これを当人同士でやってしまうと、それぞれの立場や好き嫌いもあってなかなか公平にいきません。

佐藤:コミュニケーションが荒くなるイメージがありますね。

早﨑:スタッフ同士が互いに成約までのプロセスを主張し合うのは、とても大事なことです。ただし必ず上長が間に入って、フェアになっているかどうかを判断します。それでもスタッフはお互いに持ちつ持たれつですから、実際は売り上げに伸び悩んでいるスタッフに対しては多少の温情が働くこともあります。もちろん何もやっていないスタッフの取り分はありませんが、そういう温情がかえって本人のやる気を引きだすこともありますから。

佐藤:上長がきちんとスタッフを見るというのはすばらしいことですね。携帯電話の販売員ですと、結果がでないスタッフがあっさり辞めてしまうことがあります。定着率が50%なんていうところもあって、携帯販売業界では課題になっています。

早﨑:物流も、暗い・きつい・危険の3Kなどと呼ばれ、人手不足が深刻化しています。そこで物流に顧客優先主義という概念や効率化メリットの顧客還元、インセンティブなどを導入してスタッフのマインドを上げ、競争力をつける。そのためには経営者も変わらなければならない。これが、イーソーコグループが目指す「物流ユーティリティープレイヤー」のスタイルです。

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長嶋のノウハウを王の言葉で

 

佐藤:携帯ショップのなかで扱っている商品は、アクセサリーやタブレット端末など多岐にわたります。それに加え各種のサービスオプションに、各携帯電話会社からその時々の指示もあります。私は営業を離れてからは、店舗でのセールス支援という形で研修を施してきました。多くの販売店をまわるなか、そのナレッジを平準化できないかという販売店のオーナーの声があり、「ナレッジシェアアプリ」を開発しました。今年4月からリリースを開始しましたが、携帯ショップ以外にも不動産やアパレル、ブライダル、飲食など、客単価の高い業種からの引き合いを多くいただいています。

早﨑:技術やノウハウの平準化は物流業でも長年の課題となっています。あの人がいないと荷物がだせないとか、従来型の物流は多分に個人の能力に依存している部分が多くありました。今ではマニュアルをクラウド上で簡単に作成できる「Teachme」をはじめ、ICTで管理できる部分も増えていますが、それでもみんな同じようにやっているように見えて、結果には差が出てきます。営業分野では、そこをどう解決していくかが新たな課題です。それとともにすすめていかなければならないのが、スタッフの多能工化です。ほとんどの物流企業は中小ですから、業務だけ、営業だけ、事務だけができればいいというわけにはいきません。イーソーコグループでは営業を基本に物流や不動産、金融、ICTや建設など物流不動産ビジネスに関わる業務に精通し、繁忙期には物流現場業務もこなす人材を「物流ユーティリティープレイヤー」と呼び、これを育成するための取り組みをはじめています。業務ノウハウの平準化と多能工化を、物流における営業力の強化につなげる。そのための育成カリキュラムを、模索しつつ組んでいるところです。

佐藤:私は携帯ショップの販売員時代、私自身のやり方を同僚にそのまま伝授していました。しかし教育の専門畑の人は、お前は「長嶋」だからだめだというのです。巨人の長嶋さんのような優れたプレイヤーであっても、説明する立場になると属人的で平準化されておらず、理論化されていないため伝わりにくいと。そこで文献を読み漁り、私と同じようなことを言っているものをトレースして教育用の資料を作ってみました。そうしたら今度は「理論的だ」といって評価されました。人の言っていることのつぎはぎではありましたが、理論的にすることで話が伝わりやすくなるということをその時に学んだのです。そして既存の言葉を借りながら3年、4年とやっていくうち、今度は自分なりの理論化ができるようになり、メソッドができてきました。それから8年くらい経つと携帯電話会社からも認められ、全国的な教育研修事業者として指定を受けることができたのです。

早﨑:伝えるためにはどうすべきか、というところから出発し、理論を組み立てていく。属人的なものに普遍性をもたせるために重要なプロセスですね。

佐藤:なにより、監督業においては長嶋さんよりも王さんのほうが実績を残したということに、平準化するうえでの課題と解決がある気がします。どちらが良いかではなく、属人的な部分は残しつつ、それを誰かが分析できるような軸を持たせて、説明がつくような仕組みをつくる。王さんと長嶋さんが同じ目標に対して異なるアプローチを行ったとしても、おたがい組み合わせることで伝えられるモノが大きくなると思います。例えば会社のスタッフが属人的な長嶋さんのような人ばかりでも、それをフォローする王さんのような人がいることで、伝え方に対する考え方が違ってくるのではないかと考えています。

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(後編へつづく)