札幌三信倉庫株式会社 小野 博史代表取締役社長 − キーマンに聞く 第24回 
4月に50周年を迎えた札幌三信倉庫。創業精神の三信訓(信用は己の義務と責任を果たし/信仰は己の確信を深め/信念は無限の可能性を生む)のもと、事 業を拡大していった。今年度のキーワードは「節目の認識、新しい創造」。物流業界は、ITシステムの活用が弱く、その強化を図ることが、今後の物流ビジネ スの拡大に寄与すると判断。ITシステムを利用した新しい物流の創造を図っていく。
社員も経営陣も一丸になってきたのが強みと、50周年を迎えた札幌三信倉庫の小野社長
――北海道を基盤にし、物流業で50周年を迎えた。
小野社長 この50年はいろいろとあった。特に景気の動向と規制緩和は経営に大きなインパクトを与え続けている。景 気の良かった時期もあったが、最近では、タリフが撤廃され、料金が自由化。さらに、倉庫業への参入緩和もあった。こういった規制緩和は、既存事業者とし て、大変な危機だった。50年事業をやっていると、良かったことよりも、危機とそれをどうやって乗り越えていったかということの記憶が鮮明に残っている。
――実際にはどのように乗り越えたのか。
小野 危機に面したときほど、会社の力が試される。経営者だけが危機を感じて、会社の指揮を取っていたのでは、うま くいかない。当社の場合は、従業員も危機感を共有し、ビジネスに当たってくれたからこそ、今がある。現在行っている、トランクルーム事業の「蔵・デ・イ ン」や医薬品配送ネットワーク「メディカルDo-net」など、新たなビジネスが生まれたのも、当時の危機を乗り越えるべく、社員と経営陣が一緒になって 考えた結果だった。
――現在、北海道は長期の景気低迷に入っているが。
小野 北海道拓殖銀行の破綻以来、北海道の景気は厳しくなっている。長期的な影響のため、そうとう厳しい。拓銀の倒 産直後から、資金繰りが厳しくなった企業が出てきて、余計に景気が悪くなっていった。拓銀が北海道の企業を支えていたのは確かだ。さらに、今回の地震の影 響が響いてくる。
――正念場になる。
小野 相当厳しい状況と見ている。もともと北九州と同じように東北地方に工場を誘致する計画が前からあったが、バブ ルの崩壊などの景気低迷で、なかなか進まなかった。その計画がやっと進み始め、東北に工場などが誘致され、それに伴い物流も活発化してきそうだと思ってき たところ。それが今回の地震で、どうなるかが分からない。工場の進出が止まるだけでなく、既存の工場も、リスクマネジメントの観点から他の地域に移ってい くのではないか。そうなると、北日本の産業に大ダメージを受け、物流にも影響を及ぼす。東北だけでなく、北海道にも影響が出てくるだろう。ただ、どのよう に影響がでてくるのかが明確になっていないのが、非常に怖い。
――新たな物流ビジネスを構築できそうか。
小野 社会システムが変貌し、産業の形が変わり、物流の形も変わっていく可能性がある。それに対応するための物流 サービスを提案していかなければならない。それは、私1人では到底達成できないこと。過去の危機を乗り越えたように、従業員も一緒になり、会社一丸となっ て突き進めていく。社員とは、何はともあれ「ガンバロウ」の言葉を共有し、暗い気持ちにならないようにしている。暗くなると、思考も停止し、新しいビジネ スのアイデアは生まれない。とりあえず、がんばっていこうという前向きの姿勢の中から、新しいビジネスチャンスは生まれてくると思う。特に、今回の地震災 害から、地震へのリスクマネジメントを考えた物流ビジネスニーズは上がってくるだろう。当社ではレコードマネジメント(ドキュメント総合管理サービス)で 地震災害を想定したサービスを提供している。この経験から、地震災害に対応した新たなビジネスが考えられるのではないか。
――小野社長の中に具体的なアイデアは浮かんでいるのか
小野 新しいビジネスは、ITシステムを活用したビジネスだと思っている。時間差、距離をなくしてくれるITシステ ムを活用することで、物流はもっともっと新しいビジネスができると思う。過去、物流業界は、ITシステムを使うと言うよりは、使われていた。なんとなく他 業界のIT活用に引きずられていたといったところが強い。それを物流ビジネスとしてITを使っていくところにビジネスチャンスがあると思う。
――その中で北海道イーソーコ.comを刷新する計画があがっている。
小野 ITを使ったビジネスでは、イーソーコ.comの物流不動産ビジネスというのは、非常に勉強になる。もちろ ん、物流不動産ビジネスとして収益をあげていくのが第一命題だが、ITの使い方というのを学ぶ上でも重要だと思っている。物流不動産ビジネスはITと人脈 ネットワークの融合と捉えている。今後の新規物流サービスのキーとなる考え方だ。リニューアルの話もあり、よりITと物流を融合したビジネスにチャレンジ していきたい。
――ただし、新しいビジネスを考えても、今回の東北地方太平洋沖地震の影響はもっと厳しく大きいのではないか。
小野 確かに、物流業界には相当な影響があった。しかし、それだけではないだろう。震災後のことを考え、BCP(事 業継続計画)の観点から見れば、物流網が寸断されると、どれだけ影響が出るかということが明確になった。今後、物流は平時の効率化だけでなく、緊急事態の 対応を考えなければならなくなった。そこに物流不動産ビジネスのチャンスはある。物流拠点の複数拠点化といった話があれば、物流不動産ビジネスの本道だ。 また、北海道とITを活用し、西日本、近畿、中部、関東の顧客に提案できるサービスもあるはずだ。北海道イーソーコ.comをやっているおかげで、全国の イーソーコをやっているASPの企業、その顧客とつながることができる。北海道の既存顧客に関しては、別のサービスができる。物流不動産ビジネスでノウハ ウを得たITの活用方法を応用していくことで、震災後の社会に適応したビジネスを提案できる。
――50周年と大震災が重なり、大変だと思うが。
小野 50年と言うのは、一つの通過点・分岐点でしかないと思っている。分岐点という意味では、今回の震災は外部か らの刺激となっている。これだけの大震災だからこそ、自社でできること、今後、自社が生き残っていくためにはということを真剣に考えることができる。物流 不動産ビジネスに加え、従来のITの活用方法を合わせて、物流業界の新たな動きとしたい。