物流不動産の歴史-4 
(三)物流ファンド・物流REIT
不動産ファンド「REIT」のしくみ
プロロジスは米国最大の物流ファンド、物流REIT(物流不動産投資信託)の事業者でもある。
REITとは不動産ファンドの一種で「リート」と読み「投資家の資金をもとに不動産を取得し、運用していく金融商品」である。
REITとは小口の投資マネーを集めて不動産専門に投資するファンドのことである。日本では〇一年九月に東京証券取引所に「日本版不動産投資信託(JIREIT)市場」が解説された。
REITは証券取引所に上場することで十分な流動性と換金性を獲得することになる。多くのREITは形式上「株式会社」の形態をとる。SPC(特別目的会社)に資産所有権などを移転させる。投資家は投資額に応じての利益配分を得ることができる。一般に商業施設は五%前後の配当が得られるとされているが、概して長期契約が多く、メンテナンス費用がかからない物流施設に的をしぼったREITは米国では優良商品となっている。
もちろん、不動産ファンドの全てを上場させる必要はない。
米国では、限られた大口投資家のみを対象にして利回りのよい不動産ファンドを組む「プライベート市場」も発達している。日本でも物流ファンドのプライベート市場への注目度は今後、急速に高まってくる見込みだ。
物流ファンドの恩恵
これまで日本では必要な規模の物流施設は荷主企業が自己保有するのが常識化していた。だがそれでは巨額の投資が必要となり到底、持ち堪えられない企業も出てくるわけである。
だがプロロジスが最新鋭の物流施設を提供するならば「ノンアセットで十分やっていける」ということになる。それゆえプロロジスによる物流施設の運営・開発は多くの日本企業の物流関係者から衝撃をもって受け取られた。
実際、欧米ではすでに物流施設の建設やその情報システムを専業デベロッパーに外部委託する事例が相次いでいる。
プロロジスは一つの大規模な物流施設のスペースを複数のユーザー企業に提供する。複数の企業と契約していれば物流施設が突然ぽっかり空くかもしれないリスクを回避できるというわけだ。
ただ、複数のユーザー企業の要望を満たすためには高いレベルでのウエアハウス開発が要求される。これに対してプロロジスは「プロロジス標準」という高い基準を設けて対応している。
プロロジスを追走する企業
日本の物流施設市場に注目する外資系不動産企業はプロロジスだけではない。プロロジスと並ぶ米国の大手、AMBブラックバインも〇三年四月に日本法人を設立、日本市場に参戦。成田空港にほど近い南三里塚巨大物流施設「成田バーク」の建設に乗り出した。成田バークは敷地面積一四万㎡、総延床面積約一六万㎡の巨大物流施設群で、テナントとは五年以上の長期契約を結ぶという。
AMBブラックバインは八三年に不動産投資アドバイスなどをメーン事業としてサンフランシスコを本拠地として設立された。その後、物流ファンド、物流REITに特化した戦略を展開、シンガポールのチャンギ国際空港やフランスのシャルル・ドゴール国際空港の物流施設の建設に着手。一〇〇〇億円を目指し、J-REIT(日本版不動産投資信託)への上場を視野に入れている。
世界最大規模の不動産投資顧問会社、ラサールインベストメントマネジメントも〇三年八月二日本での物流施設への投資を発表。物流企業、ナカノ商会とは二〇年間の定期借家契約を結んだ。
ナカノ商会とは二〇年間の定期借家契約を結んだ。
ナカノ商会は一九八八年に設立。東京湾岸を中心に東北まで約四〇棟の倉庫・物流拠点を構える。物流施設を中心とした不動産賃貸業、倉庫・運送業、コンサルティング業などを事業展開している。
米国系不動産ファンドマネジメント会社、ケネディ・ウイルソン・ジャパンも日本の物流施設に多大な関心を抱いている。〇二年の飽きに千葉県浦安にある川崎製鉄が造成した流通施設用地約一六〇〇〇㎡にプロロジスと共同で二八〇〇〇㎡の建物を竣工させた。
近年、欧米では数兆円という巨大な年金資金までもがファンドの運用対象として、ウエアハウス(物流施設)事業に注目している。
「物流施設は企業戦略にとって重要度が高い施設であることから、年金などの保守的な資産運用に適している」(海外不動産関係筋)という考え方も強い。
米国のウエアハウスファンド運用会社は3PL企業に巨大物流施設を賃貸して、安定収入を確保するというビジネスモデルを構築してきたのである。
他方、現在の日本の物流システムは大きな変革期にあり、従来型の多くの倉庫・物流センターはすでに非効率化が顕著な状態に陥っている。
一方、ウエアハウス建設に当たっての土地代も建物建築費もデフレ下では安価な投資となる。それゆえウエアハウス市場の発展性はきわめて高いという読みが出てくるわけである。
日本企業の物流ファンド戦略
日本企業も物流ファンド、物流REIT構築の態勢を整えようとしている。
三井物産は中央三井信託銀行とケネディ・ウィルソン・ジャパンと共同で物流REIT事業に乗り出した。
三井物産は、流通加工に強い日東ロジスティクス、定温保管に定評のある東神倉庫、重量物の特殊輸送に強い宇徳運輸、京葉築に豊富な倉庫物件を持つ京義倉庫、食品保管・配送に強い三友小網などの倉庫関連事業を有している。運営する物流施設は総計約一二三〇〇〇㎡。
三井物産のライバル、三菱商事も物流ファンド、物流REITには意欲的だ。三菱生じには商業施設専門のJ-REITとして注目を集めた「日本リテールファンド投資法人」(JRF)の実績がある。商社の特性として、金融、不動産、物流の三本柱のノウハウが企業内に集約しているという自負もある。今後の物流ファンドを巡る諸情勢のカギを握るプレーヤーとなるかもしれない。
また、幸洋コーポレーションも日立製作所グループの日立ライフと共同で物流ファンドの組也に参画している。
現在、物流関連の資産運用規模は一兆円を軽く超えると推測されている。国内外の有力企業が物流ファンドにあつい視線を送るのも当然のことといえよう。
これまで不動産投資ファンドは収益物件としての評価の容易なオフィスビルや住宅などをメーンターゲットとしていた。しかし、市場の成熟や競争激化により、多くの収益獲得が望めなくなってきた。
そこで注目されたのが物流施設であるわけだが、一般の投資家にとって物流施設の資産としての評価は簡単ではない。
けれどもこれまでの不動産投資ファンドとは全く異なる性質をもっているので資産ポートフォリオを多様化する好材料とも見なされている。しかも賃貸契約が長期に及ぶ傾向が強いため収益性が安定しているし、オフィスビルなどに比べてランニングコストもかからないなどファンド化する場合のプラス面も大きい。
さらにいえば最新機能のウエアハウス(戦略的倉庫)を求める物流業界の需要もきわめて強い投資家サイドから見ると物流ファンド、物流REITの魅力は相当に大きいといえよう。