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日本GLP▼扇島が紡ぐ「鉄」から「食」への産業構造転換 

2026年09月06日

川崎臨海部に浮かぶ人工島「扇島」が、100年に一度と言われる巨大な変革の鼓動に震えている。かつてこの場所は、何もない海だった。1971年12月、日本が高度経済成長の絶頂期にあった頃、世界最大級の埋め立てプロジェクトが始動。千葉県から山を削り、8500万㎥もの土砂を運び込むという、まさに「山を動かし、海を拓く」壮大な実験だった。

515万㎡の大地は、鉄鋼生産の心臓部として日本の産業を根底から支えてきた。しかし、半世紀を経て、時代は大きなうねりを見せている。かつて鉄が担った経済成長の象徴としての役割は、今、脱炭素(GX)と、人々の暮らしを支える「食」の高度なサプライチェーンという、新たな時代の要請へと受け継がれようとしている。

JFEグループが掲げる土地利用構想「OHGISHIMA2050」は、約400ha(うち扇島地区222ha)という首都圏最大級の広大な土地を再編する国家レベルのプロジェクト。産業構造を従来の「重厚長大」から、カーボンニュートラルとイノベーションを柱とする「高度循環・持続可能」なモデルへと変革する挑戦ともなる。先人たちが海から生み出した土地の上に、次の100年を支える基盤を再構築する。

今回のプロジェクトで日本GLPは、JFEグループから物流施設開発用地を約450億円で取得。この契約は、扇島全体の土地利用転換を動かす起点となる。土地売却によって得られた資金は、即座に扇島の沿道エリアや共創エリアの解体・基盤整備へと循環される。さらに、物流施設の稼働に向けた道路整備が進展し、閉ざされた製鉄所として機能していた要塞が扇島の歴史上初めて公道に接続され、広く社会へとその門戸を開放する。エネルギー、デジタル、そして高度物流の基盤が揃い始めることで、GX産業集積に向けた歩みは大きく前進する。

川崎市の福田紀彦市長は、扇島の再開発について「カーボンニュートラルと持続可能な地域成長を同時に実現するための最重要戦略である」と述べている。国から「GX戦略地域」の有望地域として選定されたこの地は、一自治体の枠を超え、日本全体のエネルギー転換を牽引するフロントランナーとしての期待を背負っている。

福田市長は、この次世代産業のクラスター形成において、輸送力不足やカーボンニュートラルといった課題に対応する「高度物流拠点の形成」を重要視している。物流革新を牽引し、食の安定供給を支える拠点形成に向け、ビジネス共創のプラットフォームを掲げる日本GLPを「またとない共創パートナー」と高く評価。同社との連携により、物流とエネルギー転換が融合した社会インフラの実現を目指す構えだ。

川崎市が高度物流機能の選定において堅持したのは、公的・広域的機能への厳格な基準だった。単に巨大な倉庫を誘致するのではない。液化水素の国際サプライチェーン構築に向けた世界最大級・5万トンの液化水素貯蔵タンクの整備(2028年度実証開始予定)と連動し、エネルギーと物流が融合した社会インフラとしての機能を求めたのだ。 行政が描いた高度な機能という要求に対し、民間企業として名乗りを上げたのが日本GLPであり、その回答が「共創のエコシステム」であった。

日本GLPの帖佐義之社長は、記者会見で現在の日本のコールドチェーンが直面している状況を「構造的課題」と強調。冷凍食品の需要急増とEC市場の拡大により、主要6大都市のうち3都市の冷蔵倉庫は庫腹占有率が100%を超える逼迫状態にある。一方で、既存施設の多くは1960〜80年代に建設された老朽施設であり、フロン冷媒規制や自動化への対応が限界を迎えている。 この危機に対し、同社は独自ブランド「ALFALINK」を、初となる「冷凍冷蔵専用」として扇島に投入する。「Open Hub」「Integrated Chain」「Shared Solution」のコンセプトをコールドチェーンに適用し、個社が壁を作るのではなく、施設を開き、企業間を繋ぎ、ソリューションを分かち合うプラットフォームを構築する。

この挑戦は、隣接する東扇島エリアへの連携という側面も持つ。日本有数の冷食集積地でありながらキャパシティ不足が課題となっていた東扇島に対し、今後開発されるALFALINK川崎扇島がバックアップ機能を担うことで、エリア全体のレジリエンスを底上げする。競合ではなくアライアンスの形成だ。日本の食卓を守るための新たな食の安全保障の姿である。

ALFALINK川崎扇島は敷地面積約18万m2(約18ヘクタール)で展開される国内最大級の大型拠点だ。投資総額は3000億円以上を見込み、全11棟で延床面積は約37万m2、保管能力約55万トンとなる見込み。2028年6月より順次着工し、2030年7月には一部先行稼働する計画だ。「11棟すべてが冷凍冷蔵施設という極めて大規模な特化型開発は、我々にとっても初めての挑戦になる」と帖佐社長は胸を張る。

施設内には、自動運転トラックの受け入れや倉庫内の自動化導入を前提とした設計がなされ、敷地内には市民が親しめる空間の整備も計画されている。エネルギー(GX)、デジタル(DX)、そして物流が高度に融合した「未来の産業基盤」が、かつての原料ヤードから立ち上がる。

「鉄の島」から「食とエネルギーの島」へ。このプロジェクトは、単なる一企業の投資でも、一自治体の再開発でもない。3者が締結した協定は、日本の産業構造を根底からアップデートし、未来の世代に対して「食の安全」と「持続可能な社会」を約束する公約そのものだ。

半世紀前、海だった場所に最初の杭が打ち込まれたときと同じように、次の100年を見据えた揺るぎない礎が築かれた。扇島が紡ぐドラマは、第2章という名の「未来」へと、今、力強く踏み出した。