金融業界の戦略 − 第7回 物流不動産不況と戦略
物流不動産事業には多額の資金と高速の供給が欠かせません。チャンスはタイミングだし、開発営業活動もじっくり調査するのでなく、顧客ニーズを触発することが重要だからです。ここに、巨大資金とクイックレスポンスという物流業界で聞いたようなキーワードが登場します。
金融業界は銀行証券生損保に代表されますが、ホリエモン事件で話題になった金融ファンドとか匿名事業協同組合というのも、一般事業の延長に金融知識を身につけたビジネスマンが興した金融サービスです。
以前からの金融機関は公定歩合という日銀指定の低金利政策と一般事業融資だけでも調子の良かった産業でした。ところが2001年以降の企業家マインドに劇的なパラダイムシフトが起きてから、いわゆる銀行家の登場場面が極端に減ってきたのです。
我が国では財閥解体政策60年昔から、企業と銀行家は一体となって産業を形成してきました。経営者は借り入れという銀行資本によってしか資金調達の方法を習ってこなかったからです。さらに自己資本比率の低さは何も悪さもなく、いつも銀行家と一心同体の経営が手本だったのです。数十年の金融業界では安定重視と規制に守られた産業で、競争は預金獲得程度の合併話しか関心がありませんでした。
21世紀を迎えて証券業と銀行業の一体化や生損保事業の合流が金融業界の多角化脅威となりましたが、根底には融資重視の経営に変化はありませんでした。イギリスから発生した金融ビッグバン!、今となってはこの規制緩和政策に歴史的な評価が下されています。それは正しかったのか?
いずれにせよ変化の少なかった金融業界には死活問題としての事業規模と業界再編の嵐が訪れ、中央銀行頼りの経営では退路も閉ざされた状況に追い込まれました。企業家は広がった証券業界の多様なサービスによって、自己資本を証券の印刷という手段で無条件に資金獲得ができるようになりました。印刷!ですよ、まさにお金を生み出す仕掛けを手に入れたのです。
そのための経営転換はキャッシュフロー経営とか在庫の削減とか、グローバルスタンダードという事業の海外戦略による海外市場での株式や債券の発行という国際化を生み出しました。
さて大変革に金融業界が手を出したのは、不動産という長期収益事業へのじゃぶじゃぶ融資です。短期の値上がりを強制するようなバブル経済は中央銀行が悪いのか、金融業界が必死の取り組みをした必然なのか、すでに歴史が証明を下しました。
今後の戦略に規模拡大や国際化は手遅れの感があります。というよりすでにメガバンクがどんどん誕生しても国際競争力には遠く、郵政民有化によって誕生したゆうちょ銀行との競争も危うい状況です。国際化として各国に支店を派遣しても、現地海外事業者との情報理解は及ばず日本企業の支店としか折衝を持てない状況。経営者はすでに金融業界を頼りとするのではく、利用する側に立ち、自己資本の充実のためには証券会社を選択する立場まで上り詰めてしまいました。
物流業界の垂涎の資産に、巨大物流施設開発と各社が保有している在庫商品があります。物流不動産開発に金融知識が不可欠なこと、金融業界でなくとも知識の獲得で可能となりました。在庫融資はベンチャービジネスだけでなく、既存の古典的レガシー業界でも関心が高まってきています。
在庫は売れないかも知れない、というリスクの固まりだし、キャッシュフローにはマイナス効果しか無いところに、在庫資金融資=ABL(アセットベースドレンディング)とはラッキー以外の何物でも無いからです。
金融業界こそ優秀な人材を多数確保しておきながら、メガバンクのサービス残業や証券生損保業界での使い捨て人事で生き延びてきていることが不思議です。これからは、ABLに代表されるような規制緩和を自らが推し進め、規模ではなく機能を充実させた、銀行証券生損保一体のビジネスが少ない人材と情報ネットワークによって再興するのでしょう。
ヨーカ堂やソニーなどのように、顧客をつかんでから開始した金融業務と直接対決をしなくてはならないからです。
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント・花房陵)