戦略の修正 − 第8回 物流不動産不況と戦略
物流業界における最大の失敗は何でしょう?先見性でしょうか、それとも変化への対応遅れでしょうか。極端に景気に左右される企業体質そのものなのでしょうか。運輸に代表される規制産業は、我慢が成長要素でした。運賃は3年ごとに値上がりする規制が外されても、我慢がいずれ何とかなるという待ちの経営だったからです。15年経ちました、倉庫業も待ちの営業を転換しています。今、物流不動産業というものが形成されつつあり、ファンドの失敗や大型物流施設の不調が取りざたされていますが、2005年には物流不動産開発各社は古くからの運輸倉庫業をはるかに超える数倍の利益率を誇っていました。
江戸時代にさかのぼること数百年の物流業界に、ポット出の新規参入者が登場して物流業界の利益を根こそぎ稼いでしまったのです。
気づくのが遅かった、これが我ら物流業界の失策です。
経営戦略の様々は自社と顧客の取り組みにあります。顧客は目前の既存客とその裏にいる新規見込み客が市場を形成していますが、いずれも自社の成長に欠かせない顧客です。売上も利益も顧客財布がもたらすモノで、経営努力は顧客に向けられるべきモノです。
合理化や企業努力という内向きのエネルギーがムダだったと反省することがこれからの戦略修正には必要な決意です。他社がどうしているか、ではなく潜在顧客がどこにいるか、物流事業の延長や上流に自社が取り組めるサービスはどんなものがあるのか、という内観と自省が必要です。
数えて運ぶ単純物流に競争力はありません。けれども商材や対象業界に特化した、規模や機能の追究はオンリーワンとしての戦略が成り立ちます。
物流の上流と下流を一手に手がければ、企業家が悩むSCMも代行ビジネスになり得ます。製造業は組み立てやセット事業そのものですから、物流施設は工場に生まれ変わることが可能だし、金融サービスとセットした在庫資金を活用すれば、代金回収ファクタリングも物流業界が手広く開始できるはずです。
すでに様々な企業家は規模よりも機能で優位性を確保しており、究極的には数名の経営陣とOEM生産、アウトソーシングサービスを駆使した販売と物流、情報システム、人材サービスなどを利用してビジネスが拡大しています。
これからの起業家に必要な条件は、規模でもなく機能でもなく、産業のデザインなのです。痛みかけたリンゴのアップルが再生したのは、ソニーが失敗した音楽コンテンツビジネスだし、携帯電話では最下位だったソフトバンクが稀代の経営者によってノーリスク(2兆円の資金を銀行から取り付けての買収)で開始できたのも、マーケットを読みとるデザイン力でした。
IBMはすでにパソコンを作らないし、ナショナルはブランド政策の失敗をようやく修正して家電と住宅の一体化を図ります。
トヨタは生産縮小するより前に北米を見限っていれば、成長の踊り場は無かったはずです。
戦略成功に酔いたくなる気持ちは分かるけれども、事業目的や理念経営よりは財布を持つマーケットのデザイン、どうやって自社に関心を持っていただくかという謙虚な姿勢が、正しい戦略の修正方法なのです。
今、経営者こそ内観に気づくべきでしょう。
●我々は何をしてきたか。
●顧客にどんな迷惑を掛けてきたか。
●そのとき、顧客はどう反応したか。
些細な失敗、継続してきた成功の裏にある、ちょっとした心の痛み、クレーム、切り捨て、聞かなかったことにしてしまった事件やトラブル。ここに焦点を当てなければ新しいデザインは生まれません。そして再成長の道も閉ざされるのです。戦略とは自社とマーケットの組み合わせ以外にはないのです。
物流不動産ビジネスが物流効率化やコストダウン、物流の高速化と規模の拡大による3PLビジネスの必須条件だったことは、業界人ではない異業種の経営者による内観から生まれたことは確実なのです。そう思いませんか?
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント・花房陵)