経済成長と雇用安定、国難を回避して − 第12回 国家戦略会議と物流
経済成長は売り上げであり、付加価値額であり、一人当たりの所得である。増えることが望ましいが、条件がある。それは人口が増える以上に生産が増えなければならず、現在は人口が減る以上に生産が落ち込んでいる。これだけでも成長は不可能と言える。毎年1%の人口減少は10年で10%、20年で20%弱の売り上げ縮小となる。このままではどんな企業でも損益分岐を割っていくことになり、生き残れない。産業が変われば話は別で、アメリカは大企業の国と思いがちだが、今は個人零細中小企業が3割を超え始めていて、個人事業主の国に変わっている。イタリア型と言える。少ない売り上げでもちゃっかり生き残れるし、業種変更も機敏に変化している。
大企業が年々成長して雇用を増やせれば良いが、条件が揃わなくなってきている。世界に冠たる内需国家の日本でも、小売業が低落し始めており大企業の規模の拡大にかげりが出てきているのだ。日本が奇跡の成長を遂げてきた登山の経験から、今度は下山の心得が必要になってきていると言われている。少ない資金で豊かに暮らす心がけや住宅や社会のあり方を模索しなくてはならなくなっているのだ。
所得と生存のための食費、住居費用が幸福指標と言われてきて、日本は20%まで下がってきたが、これからは反発するだろう。それでも幸福でいられるための方策が必要になっている。大学生の就職難が一段落したのは、終身雇用を約束した企業に職を求めたのではなく、長くて3年の腰掛け先として派遣会社、アウトソーシング企業に道を求めたからである。給与の限界があるサービス産業に潜り込んだからである。
企業の寿命も縮まるだろう、30年寿命が再び言われるようになるが実はもっと短命になってきている。30年働くためには、10年サイクルで職業を変わっていかなければならない。
9割の中小企業は更に高まり、10割がそうであっても日本は維持されてゆく。一人当たりの経済指標に組み替えれば、GNPで中国に抜かれようとも一人当たりはまだ10倍である。OECD先進30カ国でもまだ中位だから、更に上を目指すことができる。そのことを中間層の拡大と政策で言うが、正にそのことに注力しなくてはならない。
生産と消費は総量としては伸び代がなく、国内にあっては高付加価値化、輸出輸入にあっては低価格化が更に進むことは確実だ。
業種から業態転換という、市場と顧客の組み合わせが徐々に崩れて行くだろう。自動車は家電メーカーと競争するし、住宅産業は不動産と一体化、食品は健康医療と同一視されて、サービス産業は「早い安い」と「高い価値ある」事業に分かれてゆく。製造がアジアに取られるなら、アイデアと知財、設計とソリューションという総合営業が残り、日本風のきめ細やかさを追加して、世界で闘うことになるだろう。
望ましい姿と実現可能性を備えた産業とは、日本が抱えている問題点と解決のための課題をきちんと踏まえながら、同時に働く者の幸福を見失わない産業が必要になる。決して産業革命やIT革命と言った大きな潮流ではないはずだ。技術ではなく組織やマネジメント、心理や心遣いによって価値を高めてゆく産業と商品とサービス。
車、家、食品、サービスで日本は世界に出てゆく磨き上げを経験してきた。コストで負けたなどというのは誤りで、機能と性能が異なることを正しくアピールしてゆけばまだまだ市場はあるはずだ。
政策によって日本は生まれ変われるかが問われているが、過去にもこれからも決してお上だよりでのほほんと生活できるはずはない。大企業の時代が終わり、イタリア型個人商店、日本型家族経営、アメリカ型知識技術突出を支える小規模ビジネスが流れを作り始めるだろう。大規模物流より宅配便、この需要は価格は高いが価値あるビジネスを支える物流としてさらに伸びてゆくだろう。
(了)
(イーソーコ総合研究所・主席コンサルタント 花房 陵)