「岩手方式」に学ぶ災害物流▼円滑な被災地支援向け 
2012年10月18日 【輸送経済(http://www.yuso.co.jp)】
昨年3月の東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県。被災地への円滑な支援物資輸送を実現した岩手県トラック協会(海鋒守会長)の取り組みは「岩手方式」と呼ばれ、行政・物流業界から高い評価を得ている。今後の大災害にトラックはどう対応すればいいのか。「岩手方式」の成果と問題点を通じて、円滑な支援物資供給の在り方を探る。
「初めに方法論があったわけではない。大量に届けられる物資をどうさばき、被災地に届けるかを走りながら考えた」(岩手県トラック協会の佐藤耕造専務理事)。
岩手県の支援物資供給の一次集積拠点となった同県滝沢村の大型複合施設・岩手産業文化センター(通称・アピオ)は高速道路に近く、広い催事場と駐車場を持ち、床面耐荷重が1平方㍍当たり5㌧と大型トラックの直接乗り入れが可能な施設だった。
24時間体制で荷受けに対応
県から、支援物資の荷受け、仕分け、被災した県内十二市町村への搬出まで一括管理を要請された岩ト協は、緊急輸送対策室をアピオに移し、佐藤専務理事を総括責任者に作業を開始。県の担当者をアピオに配置するよう要請し、県とト協が即時に情報共有・伝達できる仕組みを形成した。
アピオには、24時間体制で日本通運など岩ト協会員から六十人の作業員を常置。「いつ着車しても荷物を降ろせる体制にした」(佐藤専務理事)。フォークリフト8台、パレット、ロールボックスパレットを用い、効率的な作業を進めた。
出入り口には警備員を配置。届く物資の詳細や積み付けなどの確認、盗難防止のため、入退場する全車両をチェックする体制も整備した。
被災者が避難所から仮設住宅に移り始めた後も、都市機能を失った被災自治体への物資供給を実施。アピオでの作業は昨年12月末まで続いた。
この取り組みは、3PL(サードパーティー・ロジスティクス)とクロスドッキング型を組み合わせた「岩手方式」と呼ばれ、国土交通省は今後の災害物流のモデルケースに位置付けている。
一方、課題も。震災後の停電、燃料不足は災害物流に波及。岩手ではト協が県に交渉して燃料を確保した。「(物資輸送の)方法や作業は民間ノウハウを活用できるが、基盤となる電力や燃油の確保は国や県の協力が不可欠」(佐藤専務理事)。
物資集積拠点事前に選定を
一次拠点から各市町村への物資供給は円滑に進んだが、避難所への輸送が滞留した。各自治体が宅配業者やト協支部と協定を結び、一次拠点から各市町村の避難所までの輸送を一元管理する仕組みづくりも、被災者に物資を届ける鍵といえる。
震災時、県の災対本部に物流関係者が加わる予定が当初からなかったことも課題に。都道府県の災害対策本部にト協や倉庫協会など物流関係者が自動参集できる制度設計も欠かせない。
岩ト協は、こうした成果や問題点を踏まえ、①管理・機能②輸送③集積所・備蓄倉庫④情報通信体制⑤平常時の訓練など⑥危機予測――の点で、県への要請を含めた検討課題を整理した。
「岩手方式」は他の都道府県でも活用できるのか。佐藤専務理事は、物資集積拠点となる施設の事前選定が重要と強調。「一次拠点は被災地の近くでなくてもいい。作業効率で選ぶことがポイント」(同)。
〝決断〟と〝実行〟鍵握る
また、災害時の物流関係者の心構えについて、「異常時に必要な考え方は平時とは全く異なる。〝決断〟と〝実行〟に尽きる」(同)と話す。
「岩手方式」の成果や岩ト協が直面した問題点が、今後予想される首都直下型や南海トラフ地震など大災害時の支援物資供給を円滑に行うための重要な教材になることは間違いない。(水谷 周平)