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クレームが来ないという恐怖 - 110 

現存する世界最古のクレームは紀元前1750年ごろ、古代メソポタミアのnanni氏がea-nasir氏に宛てたものだという。粘土板を解読したところ、購入した銅のインゴットの質が良くなく、返金を要求したのに応じてもらえないと非難する内容だったという。この話を聞き、ある人から聞いた話を思い出した。

以前、ビル管理会社の経営者と話をした際のこと。ニーズを把握するために何が重要かという話題になった。その経営者いわく「顧客から寄せられるクレームにこそ、ニーズやウォンツを掴むヒントが最も豊富に含まれている」と。クレームこそ、管理する立場では気付かないような改善点を教えてくれる、ヒントの宝庫なのだという。問題を起こさず日々の業務を無事に終えるという意味からいえばクレームの発生は避けるべきことではあるが、顧客の反応を知るという意味では「小さなものなら毎日でも起きて」ほしいくらいだという。

逆に最も怖いのは、何の反応もないこと。というのも、寄せられた苦情や要望を分析してみると、実は小さな不満が溜まった末にクレームに至る場合が多いのだという。つまり「クレームが来ない」のと「不満が無い」のは同義ではない。お褒めの言葉もないかわりクレームも来ないような状態は、実は不満が蓄積されつつあるのかもしれないのである。問題が小さなうちに把握し対処するためには、無反応よりもクレームがあった方がはるかに良いということなのだろう。

ビルの管理という業務は、完璧にこなして当たり前という世界である。顧客のために便宜を図ったからといってインセンティブを得られるとは限らず、失敗すれば減点だけが残ってしまう。物流業も同じで、顧客の要求に応えることが全てといっていいシビアな世界だ。だからこそ、顧客の声には常に敏感でいたい。

古代メソポタミアのea-nasir氏がnanni氏からのクレームに対してどのような対応をしたのかは定かではない。願わくば、クレームというピンチをチャンスに変えられんことを。

(久保純一)2015.05.20