後ろ指を指されるのは、前に進んでいるからです - 136 
先日取材したとある物流会社の社長が、こんなことを言っていた。「物流会社を名乗っている以上、物流以外の事業で目立つのは差し障りがあるのです」と。その会社では築年数の経過した自社倉庫を改装してレンタルオフィスを運営しているのだが、表向きは別の名称になっている。どうやら同じ物流業者の目が気になるようだ。
物流における収益力強化が課題とされて久しいが、しかしそれも過去の話になりつつあるのかもしれない。景気回復に陰りが見え始めたといわれる昨今、もはや収益力は「強化」ではなく「維持」を課題としなければならない段階に入っている気がしてならないのだ。運賃や保管料の値上げが現実的ではない以上、コスト削減や効率化による利益力維持が喫緊の課題となっているのは理解できる。しかし目先の収益を守ろうとするあまり強化すべきポイントを誤っては、本末転倒になってしまう。
こうした状況下にあって、倉庫というアセットを活かした収益力強化策の実施はむしろ肯定されてしかるべきだろう。それが物流と直接関連のない業種だからといって、後ろ指を差されることを懸念しなければならないというのはどういうことだろう。これまでどおりのことをやっていて儲けがでているのなら、誰も収益力の強化や維持を課題にしたりはしない。現状を分析してそれに対応することに差し障りがあるというのであれば、他にどんな手があるというのだろうか。既存のやり方では儲けがでないからこそ、新しい分野に乗り出そうとしているのではないのだろうか。
もちろんコスト削減や効率化の重要性を否定する気はまったくないし、その効果も理解しているつもりだ。それに物流は、新事業をはじめたからといって従来の業務が疎かになるような意気地のない業種ではない。物流は、従来のやり方を変えたからといって衰退するような足腰の弱い業界ではない。新しいやり方を受け入れられないような頭の固い業界ではない。そう信じているからこそいいたいのである。
これからも、後ろ指を指されるようなことをどんどんやってやりましょうよ。
(久保純一)2016.02.05