物流不動産ニュース

物流、物流不動産、倉庫を網羅した
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非効率こそ革新の第一歩 − 100 

物流業界に身を置く人には周知の事実だが、国内貨物の9割はトラックが担っている。トラック業界が果たしている役割の大きさを感じさせる数字だが、しかし見方を変えればトラックに対する依存度の高さを表す数字と捉えることもできるだろう。ここまでトラック輸送が発達したのは効率の高さが根本的な理由だが、その背景には行政主導によるインフラ整備も挙げられるだろう。

現状では、トラック輸送が物流の主役の座を降りることはないといっていい。しかしトラック輸送が「最も効率のいい輸送手段」として多くの支持を得るに至るまでには、絶えず繰り返されてきた様々な試行錯誤があったことも、時に思い出すべきなのではないだろうか。

 

先日、東京・芝浦に立つ「第1東運ビル」を見学した。1962年竣工のRC造5層という今日ではごくありふれたスペックの倉庫だが、当時倉庫といえば平屋が主流。ハイスペックな物件として注目を浴びたにちがいないが、なによりもその内部にはオーナーの進取の精神を感じさせるアイディアが詰まっているのである。

第1東運ビル

搬入・搬出の経路としては一般的なトラックバースのほかに埠頭を備え、2基のホイストクレーンにより船から直接荷下ろし、荷積みできる構造となっている。海陸いずれにも対応可能という倉庫は今日でも多くないが、同ビルの特筆すべき点は屋上にあるヘリポートの存在。これは旅客輸送を主な目的とし、都心部と郊外の物流拠点・工場などとの移動ニーズを採り入れたもので、数年前まで実際に使用されていたという。また実現しなかったが、隣接する首都高速の高架から直接出入りすることを想定して2階部分に開口部を設けているのも特徴的だ。

さらに驚くべきことには、運河をはさんで隣接する工場との地下に通路を設置し、貨物の搬入路とする構想まであったのだという。陸海空のみならず地下まで活用しようという発想力は、構想倒れに終わったとはいえ学ぶべき点がある。今日の物流システムが確立されたのは効率の高さゆえだが、しかし「効率が高い」と信じ切ってしまうことは、かえって柔軟な発想を奪うことになりはしないか。

 

古来、革新は無意味・非効率とあざ笑われた試みから生まれてきた。昨今話題となっているドローンを使った配送システムなども、コストや安全面、効率性などから疑問視する声も少なくない。これが普及するか否かは別として、しかし新しいことをやろうとする意気込みは大いに評価されるべきだろう。

同ビルは、実はイーソーコグループの母体である東京倉庫運輸によって建てられたもの。その革新性は倉庫リノベーションや物流不動産ビジネスなど、従来の概念を覆す新しいビジネスモデルを提案し続けてきた当社にも受け継がれている。

「待ちの姿勢」といわれる倉庫業界だが、挑戦する姿勢は常に持ち続けたい。

「第1東運ビル」は、そう思わせるビルだった。

(久保純一)