自動運転は有事に対応できない、かもしれない - 146 
ここ数年の自動運転技術の開発の勢いはすさまじいものがある。自動車メーカーやIT、ベンチャーとさまざまな出自を持つ企業がしのぎを削り、イニシアチブをとろうと日夜研究を続けている。物流業界でもトラックドライバー不足解消の決定打として注目されており実用化が待たれるが、しかし急ぐあまり拙速に過ぎるという懸念もある。
例えば1か月前に発生した熊本地震では道路が破損し、緊急輸送道路に指定された道も50カ所で寸断されたという。こうなっては一般車でさえ通れないのでしかたがないが、問題となるのは地震発生直後、信号機の故障や道路の破損などによってドライバーの即断が迫られる場面だ。警察官の手信号に、自動運転の車では誰が従うのか。「この先通れません」という手書きの文字を、いったい誰が読むのか。
自動運転技術は、4段階に区分されている。ハンドル、アクセル、ブレーキのいずれかを自動で行うのがレベル1で、衝突防止ブレーキなどがこれに相当する。ハンドル、アクセル、ブレーキのうち複数を自動で行うのがレベル2。全て自動で行うことができるが、必要に応じてドライバーが運転するのがレベル3。そしてドライバーの有無にかかわらず、全てを自動で制御するのがレベル4、いわゆる完全自動運転だ。課題はレベル4での緊急時対応で、前述のような場合に完璧に対応できる技術はまだ開発の見込みが立っていない。もちろん技術の発達がすすめばいつかはできるようになる、とはいわれている。しかしレベル4の実用化は、タクシーやバスで2020年代、一般車で2030年代が目標だ。それまでに間に合うか否かが課題となっている。
この問題は、自動運転に限ったものではない。物流では、実用化されつつある自動倉庫でも同じ懸念を抱えているとされている。さらにいえば、少子高齢化によって災害を含む有事の際に復旧にあたる人員も不足する。もともと人手不足を解消するために開発された技術が肝心なときに足をひっぱるようでは本末転倒だ。自動化に頼り過ぎるのはいかがなものか、などというつもりはない。しかし自動化がすすむことによって冗長性確保の重要性がさらに増すということは確実だ。自動運転技術がどんなにすすんでも、運手できる人がいなくなることはないのかもしれない。
もっとも筆者は運転が好きなので一向に問題はない。
(久保純一)2016.05.20