シェアオフィスづくりはスープづくり、のようなもの - 159 
倉庫をシェアオフィスやコワーキングスペースに改装する事例が増えている。コンセプトと運営手法が確実なら空き倉庫対策として有効だが、ノウハウのないオーナー自らが運営して成功させるのは簡単ではない。よく聞くのが、苦労して集客してまずまずのスタートを切ったのに、しばらくすると伸びなくなるという話だ。
シェアオフィスやコワーキングスペースを利用するメリットのひとつに、利用者同士のコミュニティの存在が挙げられることが多い。例えば定期利用の固定ブースの典型的な利用者は、20歳代後半から30歳代、会社員として数年を過ごした後に独立したフリーランサーといわれている。似た年齢、似た境遇の者が同じ屋根の下で過ごしていれば、自然とコミュニケーションもすすむ。互いの業務内容もレベルも分かってくる。オフィス内にコミュニティが生まれ、やがて仕事を融通し合うようになり、仕事の幅も広がっていく、という流れだ。少しでも世界を広げたい独立したてのフリーランサーならそこに魅力を感じて当然だし、多くの施設で利用者の交流を後押しするイベントを開催しているのもそれが理由だ。
ところがこうした施設の利用者は、多くが成長過程にある。その入居期間は長くはなく、おおむね2~3年で入れ替わるともいわれている。そこで施設の評判を聞きつけた新しい入居者・利用者が集まってくる。オーナーとしてはありがたいことだが、実はここが問題の種なのだ。一定の成功を収めた施設は当然ネームバリューが上がる。そのネームバリューに惹かれ、あるいは憧れる若者があらわれる。そしてそのコミュニティに入れば自分もなんとかなるのではないか、と考える。ここまではいい。そういう若者が、自身の仕事がフリーでやっていけるレベルか否かを考えずにシェアオフィスやコワーキングスペースに入居、あるいは利用登録をする。どうなるか。
何もレベルの低い者は入居させるな、といいたいのではない。ただしコミュニティの“面白さ”や“質”は、そこに参加している個々人が担っているのだ、という点を忘れると、結果としてコミュニティの存続にかかわる事態に陥りかねないということだけは覚えておいていただきたい。もちろんはじめは誰もが初心者だし、業界の重鎮だって昔は若者だったのだ。だからこそ、シェアオフィスやコワーキングスペースの運営者には、そういった若者を育てるという視点を常に持ち続ける必要がある、ということをいいたいのである。
シェアオフィスやコワーキングスペースにおけるコミュニティは、例えるならスープのようなものだ。そこに参加する個々人が各自の持ち味を出し合って、ひとつの味をつくっていく。そこにまたあらたな持ち味をもつ参加者が加わり、その味に染まりつつも新しい味を加える。しかし持ち味のない参加者が増えると、そのスープはとたんに薄くなってしまう。こうして、入居するメリットも減っていくのだ。
鍋を放っておいておいしいスープができるわけがない。味の薄い食材なら、前もって下味をつけておいたっていいのだ。要するにスープから目を離しても平気、食材にも無頓着という人は、シェアオフィスやコワーキングスペースの運営には向いていないということです。
せめて何味にするかくらいはシェフが決めなくっちゃねえ。
(久保純一)2016.10.05