デベロッパーは中小ビルを目指す? 
ここ数年来、多くの大手デベロッパーが中小規模のビル開発を活発にすすめている。ダウンサイジングの時流に乗ったわけでもないだろうが、東京オリンピック後の経済が先細りするという見通しにもとづけば、地価の上昇下降のサイクルにのっとって大規模開発をすすめていくという従来のやり方では成長は見込めない。となれば、既存のスタイルとは異なる収益モデルの構築が必須となってくる。当然、今からアナザーウェイを確保しておくべきだろう。そこで目を付けたのが、中小サイズのビルだ。
もちろんこれまで大手デベロッパーが中小ビルを建てることがなかったわけではない。だがそのほとんどが地権者との共同プロジェクトで、実際は建物の建築とメンテナンスだけという場合が多い。これではゼネコンやビルメンテナンス会社とかわらず、開発とは言い難い。
だが昨今、彼らが建てる中小ビルは基本的に自社のビルとして建設・運営される。名称も統一してブランド化を図るなど、既存物件との差別化にもかなりの力量を注いでいる。なかでもトレンドとなっているのがプレミアムという概念の導入で、建物内外の素材には天然石など重厚感のあるものを用い、意匠も落ち着いた雰囲気のものとなっていることが多い。1階にはコンビニなどのテナントを入れず、大規模ビルと比べてもそん色のない広々としたエントランスとし、有人の受付を置くビルもある。入居企業は1フロア1社とし、入退館の管理も厳格。要するに、中小規模のビルに最新の大規模ビルと同等の機能を持たせたわけである。
こうした中小ビルは、ハイスペックで手頃な広さのオフィスを求めていた企業の支持を受け、かなりの勢いで数を増やしている。かといって彼らは大規模開発を完全にあきらめたわけではないようだ。現に今も各地で高層ビルの建設は進められているし、より大規模な開発構想も少なくない。そして活発な中小ビル開発のなかにも、将来的な大規模開発への期待を見て取ることができるのである。
例えば多くのデベロッパーが、中小ビルの開発を一定のエリア内に集中させている。さらに、彼らの多くが既築中小ビルの再生事業に乗り出しつつある。典型的なのは1棟まるごとリノベーションをほどこしてサブリースするという手法で、これもやはり特定のエリア内に集中していることが多い。こうした現状に将来の大規模開発に向けた地固めという意味を見出したところで、うがちすぎた見方とはいえないだろう。一種のドミナント戦略だが、将来的な開発を視野に入れているあたり、やはり点をつなげて面をひろげるという従来の考え方が根強く残っていることを感じさせる。各社とも、決して大規模開発をあきらめたわけではないのだ。
大手デベロッパーの中小ビル市場への進出は要するに、減少が予想される大規模開発の収益を補うとともに、これまで取りこぼしていた中小ビルがもたらす収益をも吸収しようとするものだ。さらに状況が許せば、従来型の大規模開発につなげる意欲も垣間見える。そこからは、限られた予算内であってもあらゆる事態に柔軟に対処できる、一種のハイローミックスを構築する意図を強く感じる。
では倉庫ではどうだろうか。大規模高機能型物流施設に押される既築中小倉庫という構図は、新築高層ビルと既築中小ビルの関係と共通する部分が多い。デベロッパーの目が中小ビルに向き始めた今、物流業や倉庫を保有する企業としても今のうちに何らかの手を打っておくべきなのではないだろうか。大規模高機能型物流施設の興隆は今後もしばらく続くといわれている。だがはたして今のままで大丈夫だろうか。いずれデベロッパーの目が中小倉庫に向く。このままその時を迎えるのは非常に怖い。
久保純一 2017.10.05