AI化で消える不動産 
数年前、「AI化や自動化がすすむことで消える職業」のリストが話題になった。そして今、銀行の窓口業務見直しによる人員削減が現実のものとなりつつある。消える職業のリストには銀行員が入っているものもあり、リストの予想が的中したとの見方もあった。実際はAI化や自動化が直接的な要因ではないが、ITなどの技術的発展が消費者動向の変化につながり、企業の人員配置に大きな影響をおよぼしたという点で興味深い先行事例といえる。すでにいくつかの大手銀行が窓口業務と人員の削減にともなう店舗の閉鎖・縮小を発表しており、街の景色から銀行の看板がさらに減ることになる。風が吹けばおけ屋が儲かる式演繹法にしたがえば、技術の発展が銀行店舗を“消える不動産”のリストに入れたということもできるだろう。
さてそこで浮かぶのが、閉鎖した店舗をどうするのかという疑問。とはいえもともと銀行は多くが集客に適した立地にあり、すぐ別のテナントが決まるであろうとの想像はつく。90年代以降にすすんだ銀行再編でも銀行店舗統廃合の波が押し寄せたが、結果として銀行の看板が別の看板に架け替わっただけであったし、筆者も銀行の跡が長期間空き店舗になっているのは見たことが無い。だから今回も、すぐに大きな変化はないだろうというのが大方の見方。もっとも大きな影響を受けるのは銀行系の不動産会社だが、大量に発生したストックを収益源に変えることができればむしろ成長のいいきっかけになる。あるいはチャンスととらえているかもしれない。
不動産業界は経済や世の中に大きな動きが起きるたび、その影響を話のタネにしビジネスのネタにしてきた。「自動車メーカーがディーラーを再編→空き店舗はどうなる?」「大手スーパーが店舗を縮小→空き店舗はどうなる?」「大手進学塾が倒産・教室閉鎖→空きビルはどうなる?」などなど。こう書くと不動産ブローカーをハイエナと呼ぶ人がいることに納得できてしまうが、実際はどうだろうか。その動きは機を見て敏、常にアンテナを張り巡らせ、先を読みながら手を打つスペシャリスト、と書くとちょっと格好良すぎるか。
とにかく、世の中が変われば不動産が変わり、街が変わることは確かだ。経済が変化すればこれまで当たり前のようにあったものが街から姿を消し、新たなものが生まれていく。そしてAI化と自動化は、これまでに経験したことがないような変化を不動産市場にもたらす可能性がひじょうに大きいのだ。どの職業が消えるとどのニーズが消え、どんなニーズが生まれるのか。倉庫や物流施設自体が消えることはないだろうけれども、倉庫内作業員やトラックドライバーは“消える職業”のリストに入っている。AI化や自動化が、倉庫にどんな変化を要求するのか。“消える倉庫”のリストに入らないよう、今からあらゆる事態を想定して備えておく必要はあるだろう。
ちなみに“消える職業”のリストには、不動産ブローカーも入っていたりするわけであるが。
久保純一 2017.11.20